内容説明
【サントリー学芸賞受賞作 1998年度 思想・歴史部門】 11世紀、聖地エルサレムの奪還をはかった十字軍。そして中世、ヨーロッパ北方をめざす、もう一つの十字軍があった。教皇の名のもと、異教徒を根絶すべく残虐のかぎりを尽くすドイツ騎士修道会を正当化した思想とは何か? ゲルマンとスラブの相克から大航海時代までも展望し、ヨーロッパ拡大の理念とその矛盾を抉り出す。(講談社学術文庫)
目次
プロローグ──映画『アレクサンドル・ネフスキー』が語るもの
第一章 フランク帝国とキリスト教
第二章 ヴェンデ十字軍
第三章 リヴォニアからエストニアへ
第四章 ドイツ騎士修道会
第五章 タンネンベルクの戦い
第六章 コンスタンツの論争
エピローグ──「北の十字軍」の終焉とヨーロッパのグローバルな拡大
註
原本あとがき
学術文庫版あとがき
関連年表
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Akihiro Nishio
21
バルト海沿岸へのキリスト教の拡大の歴史。意外にも一筋縄ではいかず、およそ500年もの小規模戦争の歴史である。様々な騎士団が生まれるが、やがてドイツ騎士団へと統合され、プロイセン地域を支配。その後、ポーランド・リトアニア連合にタンネンベルグの会戦で敗れて、コンスタンツの論争へ。ちょうどその頃、大航海時代が幕開けし、役割を終えた騎士団は一気に凋落していく。バルト海沿岸で、これほどキリスト教の布教に時間がかかったのは、むしろ、本来布教を推進するべく生み出された騎士団のせいであっただろう。2016/10/17
ゲオルギオ・ハーン
20
プロイセン、ポーランド、リトアニア方面へのドイツ騎士修道会を中心とした十字軍の歴史を解説した一冊。神聖ローマ帝国の人々を中心とした北の十字軍はキリスト教布教のために(現地の人々よりも)進んだ技術力と武力を背景に征服活動を進めます。攻められた現地人たちも強かにキリスト教に改宗しながらキリスト教文化圏の技術や戦術を吸収します。十字軍は数々の軍旅や謀略を展開し、現地の人々も改宗とキリスト教の破棄を繰り返しながら反抗します。そこにモスクワ大公国などの諸国も少なからず関与していきます。2021/06/03
ホームズ
16
キリスト教の布教のために武力をもって異教徒を滅ぼしていく騎士団。宗教的な目的よりも自分たちの利益を優先していく姿が・・・。タンネンベルクの戦いの章はスッキリしてしまった(笑)最後の新大陸にまで話をつなげるのはちょっといらないかな。でもこういった本は貴重だな~(笑)2012/11/01
さすらいの雑魚
10
本筋はさておき 軍旅 の記述が個人的に秀逸。あの傲慢で無敵な三大騎士修道会の一角を占めるドイツ騎士団が王侯貴族を相手に異教徒狩りツアーの企画営業に励む富裕層向け旅行代理店のようで、堕ちたと思う反面で元は聖地巡礼のサポートが使命だった宗教騎士団のこれが本質であったと得心。いわゆる原点回帰。売れなくなった芸人がライブで再起を図るようなものと歪んだ理解をした(^_^;) 騎士修道会国家の成立と崩壊を詳述し軍国プロイセン≒ドイツ帝国の前史を描いた一般向けでは珍書に類する御本。文庫化に電子化と二重に素敵で良い時代。
Haruka Fukuhara
8
ロシア方面とかあちこちにも「十字軍」は侵略を進めていたという話。ドイツ騎士団とか。ドイツって断片的にしか歴史を知らないけど、近代国家として統合される前から色々と(傍から見てると余計なことを)やってますね。ドイツは近代国家としての統合のされ方も独特で、ドイツの法学を継受した日本の法学にもその影響がみられます。一橋の学長もやったらしいこの方の著作は外れが少ない印象。2017/05/21