内容説明
室町後期、荘園の新代官として赴任することになった僧の清佑。村のものどもを愛子(あいし)と思って撫育するよう老師から言われたが、村人たちは一筋縄ではいかない。食うや食わずの生活では、どんな手を使っても生きのびることが第一なのだ。寺で純粋培養され、理想に燃える代官と、代官でさえうまく利用しようとするしたたかな村人たち。清佑の一方通行とも見える彼らへの思いは実を結ぶのか。第14回中山義秀文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
100
室町時代を舞台にした時代小説。荘園の代官が主人公という珍しい内容だった。荘園に暮らしていた人々の生活、代官の仕事、不安定な当時の社会といった要素がさりげなく取り入れられて、室町時代の地方の様子が鮮やかに浮かび上がってくる。今と同じように庶民は働いても働いても生活が楽にならず、酒や博打といった刹那的な楽しみに喜びを見出すしかない。京都から赴任した理想主義者の主人公が、現実の世界との相克に苦しみながら村人を守ろうする姿は胸を打つ。ほろ苦いユーモア、生きた登場人物、ひねりの効いたプロットを備えた理想的な小説。2015/01/23
Yukihiro Nishino
10
室町時代のある大寺の荘園に代官として赴いた清佑という僧とそこに住む百姓たちの物語。一見おとなしそうに見えて強かな百姓達に戸惑いながらも懸命に代官の職務を遂行する清佑の姿に清々しい思いをしたり、厳しい生活を強いられる百姓達の姿に同情したり、にもかかわらず強かな百姓達の行動にクスッとしたり、大変おもしろく一気に読めた。岩井氏の短編集はやはりおもしろい。また、最後の物語では、荘園を我が物にしようとする地頭との争いが描かれているが、続きが非常に気になる。続編を期待したい。2016/10/26
みどらった
3
戦国時代に入る前の室町後期の村社会。舞台は大坂で奈良に近いあたり。大寺の荘園の代官として赴任した若い僧、清佑。生真面目な性格から度々村人とぶつかるが、良く話し、良く見て、トラブルを解決していく。周囲は武士の領地となっていて、そちらの年貢は高いので、村人も何やかんや文句をいいつつ、荘園が続いてほしいと思っているのだ。村ではさまざまな事件が起こる。米泥棒、訴訟、日照りでの奇妙な雨乞い儀式。食糧泥棒は死罪とか、結構厳罰だったのがわかったり、気楽に読みながら中世村社会の世界を楽しめた。2016/12/11
マサ
2
戦国武将が主役の物語は多いが、この時代の農民の暮らしが描かれるものは多くないのではないか。荘園の政所における訴訟事に庶民の暮らしぶりや考え方が想像できる。生産性が向上した時代とは言ってもやはり農民の暮らしは厳しいのだなあ。親を亡くしたおきぬのたくましさが印象的だった。2022/11/23
gibbelin
2
そうか、お寺の荘園の代官にはエリートの学僧がなりますか・・・不良だらけのクラスの担任になった新米教師の奮闘記のようでもあるけれども、戦国の世相や、狂言ネタ、信仰などもからめてあり、上手い、まったく上手い。2021/03/19
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