内容説明
生と死を見つめつづけた作家が、兄の死を題材にその死生観を凝縮させた遺作。それは自身の死の直前まで推敲が重ねられていた──「死顔」。明治時代の条約改正問題とロシア船の遭難事件を描きながら、原稿のまま残された未定稿──「クレイスロック号遭難」。さらに珠玉の三編を合わせて収録した遺作短編集。著者の闘病と最後の刻を夫人・津村節子がつづった「遺作について」を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
191
吉村昭作家の遺作を含む短編集。自らの死さえコントロールした件は圧倒される。死は各人に様々な思いがあるだろう。私がもし吉村作家のような最期ならカテーテルポートを自分で外したか?さてその瞬間一人か?絶対に譲れないのは自分の死に顔を家族以外に見られたくはないと言う点!まぁ、その時は残された息子がどうするかだが(汗)後書きに代えての妻・津村節子作家の文がまた、胸に迫る。亡き父親の死を思い出す箇所は、吉村作家こそ激流を生きて来られた生涯だったのだろうと…今更ながらに合掌する次第。読み友さんのレビューに誘われて。2021/05/03
yoshida
177
吉村昭さんの遺作。短編5つと奥様である津村節子さんの「遺作について」を収録。「冷い夏、熱い夏」では弟さんの闘病を克明に記録。本作では、自身の終戦後間もない頃の湯治場での療養中に起きた出来事を描いた「ひとすじの煙」、兄の死を描いた「二人」・「死顔」など、死をテーマに描いた作品が多い。兄の延命措置を断った嫂の考えを、良い判断とした吉村氏。彼が死の直前に、自分で点滴の管を抜き、カテーテルを外した事に、彼の死についての一貫した考え方を感じた。私自身も闘病して亡くなった祖母の死を思い出した。「遺作について」も良し。2017/10/29
chimako
83
人が死ぬというのはなかなかに難しく、また突然であったり延命治療の末であったり自分の思うようにはいかないもの。その中にあって、吉村氏が自らカテーテルポートまでをも引き抜き「もう死ぬ」と宣言して亡くなったことは意志の強さだけではない誇りを感じる。“死ぬまで生きる”という事について考える。天寿を全うすると良く言うが、その天寿とは何だろうか。何度も死にそうな目に合いながらも生き延びる人、突然の災害や事故で思わぬ死を迎える人。誰もに訪れる死だが、平等とは言い難い。……続く2015/06/16
shizuka
78
やっとここまできた。吉村さんの作品をいつからか読みはじめて大好きになって、ことあるごとに泣かされて、励まされて、感動して、人生教わって、とうとう遺作を読む機会を得られた。まだ全作読んだわけではないが節子さんの紅梅を読んだあたりから準備はできていたのだと思う。生あれば死あり、だからこそ生きることには意味があり、皆が悩むこと。死に方を考えるのも人間ならではであろう。吉村さんは他の人よりずっと死を身近に感じ生きてこられた。死顔もたくさん目にされてきた。そして決心された思い。吉村さんの笑顔は私の瞼に生きています。2018/02/13
モルク
75
吉村昭さんの遺作。自身の若かりし頃の湯治場での出来事「ひとすじの煙」兄の死を描いた「二人」「死顔」など短編が5編。家族にしか死に顔を見せたくないという意志が記され、妻子がいるなら兄弟であっても臨終や葬儀の際にあまり前に出るものではないという持論も呈されている。そして最後に奥様津村節子さんの後書きが載せられている。吉村さんが死を覚悟して執筆をした最後の姿勢や遺言が書かれ、この文章をしたためた津村さんの夫に対する深い愛を感じた。2018/01/17