内容説明
酒と女に明け暮れる無頼派の作家。26歳のその妻は夫の尻ぬぐいに奔走するが……。古い価値感が失われ新しい価値観が生まれようとしている戦後の混乱の中、必死に生き抜こうともがく男と女の愛のかたちを繊細に描いた表題作。その他太宰晩年の好短編を多数収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
469
表題作を含めて8つの短篇を収録。いずれも、戦後の太宰自身のデカダンス生活を、手を変え品を変えて綴ったもの。意地の悪い見方をするならば、すべてこれ太宰自身の言い訳。「家庭の幸福は諸悪の本」といいながら、子どもも妻も顧みず、連夜飲み歩くのだ。芸術と小市民としての生活は所詮は相容れない。それなら独身でいればよさそうなものなのだが、太宰は日常に捉えられてしまう。その中で足掻くことにおいてしか、彼の小説が生まれてこないからだ。そして、その矛盾ゆえに彼はまた苦しみ、揚句には「子供よりも親が大事」などと嘯いているのだ。2013/03/23
ehirano1
276
標題作について。「疑うことを共通して持っている夫婦の冷やかな日常の中に疑う必要のない夫婦関係が構築され、相互に支え合って生きている幸福な夫婦」というものが描かれているように思いました。2024/02/23
ちくわ
213
題名から内容が想像し難い。薄暗い洞窟に入る心持で読み始めるが、その洞窟は入るなり修羅場だ…穏やかではない。そして大谷は滅茶苦茶だ…同じ姓の翔平とは真逆である。やっと題名の謎が解け、切ない気持ちのままラストを迎え読了。DV男とシンママの嫌なニュースを観た気分になり、少し気分が悪くなる。生きていさえすればいいの…か?現状を素直に受け入れると人間はこうも強くなれるのか?そう考えると自分は弱いな…と赤面した。 太宰を読むと辛くなる…たまには良いが連続は相当キツイ! 一方でファンが多いのは納得。唯一無二に思える。2024/07/06
酔拳
204
太宰の死の前、2年から3年前の作品・短編8編が収められています。太宰の倫理観や、罪悪感がどの作品にも、よく投影されているとおもいました。そして、文章の描写が優れていることを再認識しました。「家庭の幸福」の最後の文章がぐさりときました☆2017/09/19
ykmmr (^_^)
203
太宰治の『死生観』・『女性観』・『家族観』の投影がされている数々のお話。基本的に、物語の男性はほぼ太宰自身で、ダメ自分と対比の人物を軸に物語が進んでいく。情緒不安定気味で放蕩な作者であるが、自分なりに家族を愛し、理想の家族像を持ち、自分なりに不器用に家族に愛情を持っていたんだろう。しかし、その思いとは裏腹に、文章に否定要素を加えたり、金銭問題・異性への欲望…いわいる『本人らしさ』がまた強く文章にされ、色んな事に左右にぶれながらも、人を惹きつける小説を残し、数々の疑惑を残して散っていった作者そのもの。2021/10/25