内容説明
仙石藩士・刑部小十郎は、藩の御長屋を出て、江戸市中の借家に居を移した。仙石藩はかねてより隣接する島北藩と不仲だったが、仙石藩主が島北に面子を潰される事件「檜騒動」が勃発、小十郎の朋輩・正木庄左衛門は義憤に駆られ、藩主の汚名をそそごうとしていた。小十郎は、その助太刀を命じられたのだ。大家である古道具屋・紅塵堂の娘・ゆたとの淡い恋をはじめ、人情篤き人々に囲まれた、ほろ苦く切ない江戸の青春時代小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶんこ
57
「お世話になりました。 どなたさんもお倖せに」・・江戸をたち、国許へ戻る前日、大川に向かって小十郎さんがはなった言葉。 この「どなたさんもお倖せに」に、小十郎さんのすべての思いがこもっていると感じました。 何事も中庸、出世欲も無く、死んだふりで生きて行くことも厭わない。 侍としては情けないのかもしれませんが、もし私が妻の立場だったら、こんな夫が好きです。 多分ゆたさんも八右衛門さんも、こんな人の良い素直な小十郎さんが好きだったのでしょう。 紅塵堂ではなく、刑部家を継いだのだけが意外でした。2015/12/30
shizuka
54
ところどころに宇江佐さんを挟むと落ち着く。帰るべきところに帰ってきたなと思う。今回の主人公、小十郎の人間のちっささが逆に物語を大きくしててうまい演出だと思った。すぐ怒る。辛抱たりない。のに、周りの人のお陰で最後はちゃーんと好いた娘と一緒になれて、ほんと良かった。ゆたはしっかり者だから、ちゃんと小十郎を守り立てていけるだろう。小十郎が寺で7日間修行を積むシーン、宇江佐さんよくやってくれたと思った。7日間じゃ足りないけど、それで少しはましになったもの。なんだかんだ女性強し。かあちゃんの意見は有難いね、な一冊。2017/03/13
優希
52
1人の青年武士・小十郎の成長物語です。自分の意思とは異なることを成し遂げなければならなくなった小十郎は何を思ったのでしょうか。義理や人情模様が若干薄めに感じましたが、切ない物語でした。2022/08/07
tengen
46
刑部小十郎は藩主の屈辱を晴らすための暗殺計画の補佐を父から命ぜられる。北の果てから江戸へ出てきた小十郎は激動の渦に巻き込まれて行く。 家主の娘ゆたや同郷の僧侶賢龍との出会い、そして別れ、死の覚悟。 まさに小十郎の始末記。 ☆彡檜山騒動を元に、青年武士の成長を描く。最終章の死んだふり「 どなたさんもお倖せに」と大川へ向かって呟く小十郎が印象的。 <人間、何が幸いし、何が不幸になるか知れたものではない。徒に落ち込むことはないのだ。その内に解決の糸口はきっと見つかる。小十郎は強く思った。>2019/02/04
keiトモニ
45
縄田一男氏解説に“命の重たさを知った小十郎は、ラストに「何方さんもお倖せに」といえる人間に成長しているのだ”とある。プーチンよ、この本をじっくり読んで“命の重たさ”を知れ。そして刑部小十郎のように人間を成長させなされよ。さもなくば正木庄左衛門の如く斬首の憂き目に遭うこと必定。それにしても“三日月が円くなるまで仙石領”と俚謡に謳われているとおり、仙石は広くまるでウクライナのようだ。小十郎に同行の僧賢龍“待たぬ月日は短い”と。いやはやゼレンスキー大統領の心境だろう。確かに何かを待っている時には恐ろしく遅いな。2022/06/09