内容説明
2006年12月、東京・渋谷の歯科医師一家・武藤家において、予備校生の次男・勇貴が妹にあたる短大生の亜澄を殺害し、遺体をバラバラにする事件が起きた。一般的に「歯科医師一家殺人事件」と呼ばれる同事件を、著者は亜澄への弔意を込めて「短大生バラバラ殺人事件」と記している。同事件から浮かびあがるのは、「現在の日本では“良さそう”に見える家族にこそ病弊が潜むのではないか」という矛盾、もしくは「家族が新しい世代を育成する場ではなく、新しい世代が圧殺される場と化しているのではないか」という歪みの存在だ――と著者は説く。この矛盾や歪みの淵源を探ると、明治以来の「近代」という文明それ自体に潜む問題点にまで行き着くのだという。映画や演劇といったわが国のポップカルチャー(一般文化)作品において「新しい世代の圧殺に起因する家族崩壊」というモチーフが最近目立つことにも着目しつつ、日本全体の未来への展望を指し示す。
目次
時代が切り裂かれるとき<br/>崩れゆく「家」と「国」―バラバラ殺人の文明論<br/>親に食われる若者たち―わが国に世代交代はあるか<br/>保守なき国に男女なし―時間と性の政治学<br/>図式さえも持てない人間―本格保守の必要を論ず<br/>妖怪映画と家族再生―保守には「闇」が必要だ<br/>バラバラ殺人と歴史認識―武藤亜澄が「富江」になるとき<br/>論理性なき者の自己嫌悪―本格保守の必要を再論する<br/>「ラディカリズム保守」のすすめ―親の墓に唾をかけろ<br/>近代化と「父」の分裂―保守派が伝統を僧むとき〔ほか〕