内容説明
身分のちがいを理由に大名の姫から絶縁された旗本、五橋数馬は奇抜な方法で出世を試みる。失意のうちに市井に隠棲していた大伯父の大久保彦左衛門をおだてあげ、戦記を捏造し、なき家康のお墨付きを偽造して天下の御意見番にしたてあげてしまう。それを侍、侠客、水野十郎左衛門たちが担ぎあげたために大騒動がもちあがる。諷刺と虚構を存分に駆使した奇想天外、抱腹絶倒の異色作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
52
大久保彦左衛門はいかにして「天下のご意見番」となったか。甥の五橋数馬が大伯父彦左衛門を戦の立役者として祀り上げることで出世を目論むコミカルな時代小説。野心家の数馬に劣らず異彩を放つのが数馬の養父の五橋三郎太郎左衛門で、口をひらげば一度も戦に行ったことなどないのに徳川家康が出陣した戦すべてに加わり数々の武勲をあげたと熱く語る。大きな事件があった後には自分を絡めた法螺話を吹聴する者が多いが、そういった心理を巧みにとらえているだけでなく、随所に漫才のような掛け合いもちりばめられていて、最後まで笑いが止まらない。2023/05/04
たつや
49
妄想癖のある数馬が、あの手この手で思いを遂げようとする、面白い作品でした。解説を読んで、山本周五郎の初心者の自分は納得。変化球だったんですね!太宰を敬愛していたエピソードとか勉強になる。自分の中で世界が広がる気がする。2017/06/19
酔拳2
47
山本周五郎賞という賞があるくらいだから、さぞや立派な本を書く人というイメージだったんだけど、この作品は全然違った。主人公数馬は自分の望みを叶える為、いろいろ計略を練り、周りの人を煙に巻くという、サザエさんのカツオのような人物。半ば浅田次郎のコメディに似た雰囲気の作品だったw。いや、浅田先生も立派な作家ですよ、もちろん!偉大な作家はいろいろな顔があるんだねえ。だからこそ魅力的なんだな。今度は硬派な作品も読んでみよう。2017/06/24
シュラフ
22
我々が山本周五郎に期待するその作風とは大きく異なる小説なので読んでいてとまどった。天下のご意見番の大久保彦左衛門の『三河物語』の内容は虚偽であった、という衝撃的な展開。だが、えてして歴史とか権威とかいうのはこのようにしてつくりあげられていくものなのだろう。太平洋戦争で苦労した山本周五郎の権力者というものに対するアイロニーとしての一作と見るのは深読みしすぎだろうか。2015/01/25
金吾
17
○かっ跳んでいる山本周五郎さんの作品です。他の作品と異なり作者自体が楽しんでいるような感じがしました。思い込みは人間を変えるほど凄いなあと思いました。2020/10/01