内容説明
幕末の長崎、オランダの医官ポンぺから実証的な西洋医学を、日本人として初めて学んだ松本良順。幕府の西洋医学所頭取を務め、新撰組に屯所の改築を勧め、会津藩で戦傷者の治療を指南、さらに榎本武揚に蝦夷行きを誘われる。幕末、そして維新の波にもまれながらも、信念を貫いた医家を描く感動の歴史長編。(講談社文庫)
感想・レビュー
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yoshida
138
日本近代医学の父と言える松本良順の生涯。実に数奇な生涯。真摯な生き様に感銘を受ける。江戸末期、医師とは漢方医であった。種痘等により西洋医学への注目が集まるが、禁制の学問だった。理解ある幕臣の協力もあり、松本良順は長崎でオランダ人医師に西洋医学を学ぶ。江戸から明治へ時代が変わり、松本良順の運命も動く。恩義ある幕府の為に変節せず会津戦争で治療にあたる松本良順の姿に感銘を受ける。日本と言う国家の為、明治政府の招きに応じ現代にも繋がる様々な医療や習慣を根付かせた。栄達と家庭の不幸との落差に人間らしさがある。名作。2020/08/29
アルピニア
73
幕末から維新の時代に生きた医家「松本良順」の半生が描かれている。良順は、西洋医学を学ぶ機会を与えてくれた徳川幕府へ忠心を示し、幕末の戦乱では幕府に忠誠を誓う会津藩に赴き戦傷者の治療にあたる。医家という立場でも臣としての筋を通す生き方に信念を持つ人の強さを感じた。そんな良順の人生の転機「蝦夷へ行かず東京に戻った」ことに、新選組の土方の後押しがあったとのこと。土方の視野の広さを感じた。解説(末國善巳)を読んで出来事を淡々と描く作風は、「史伝小説」という分野だからなのだと腑に落ちた。この分野に興味が沸いてきた。2020/06/05
ポチ
66
松本良順の生涯を淡々と描いているが、決して単調ではなく、西洋医学を学び活かさなくてはならない!という、熱い気持ちが溢れ出ている。良かったです。2018/05/08
kei302
62
理解がついていかなくて混乱することの多い幕末ものも、吉村氏の手にかかるとサクッと読める。なんて分かりやすいの! 最高の山場『君辱められる時には臣死す』良順の心が揺らぐ。医学知識を活かすために生きつづけなければならぬ...と決意して戦地を離れる。「ふぉん・しいほるとの娘」の主人公:稲もちらりと姿を見せる。司馬遼太郎著「胡蝶の夢」も松本良順の生涯を描いている。半分ほど読んだのだが・・ 2020/09/13
キムチ
59
再読数回目。酷暑の中読む為か、改めて氏の筆致の清冽さが浸みる。松本良順 暁の~欧米の文明に触れて行く黎明期、旅人は医学他諸々の学問の途だろうか・・先達者が少ない中、適塾から歩みを始めた人物。実父 養父ら先祖を通じそうそうたる血 遺伝子が開花。長崎 蘭学 ポンぺとの出会から始まる多々の交流 歴史変転期という運命。この手の本を好まぬ人からすると「余りの清新さと都合の良さ」すら覚えるが、乗り越えて行ったからこその良順だと思わせられる・・コレラ・解剖・攘夷の嵐・幕府解体⇒会津への下り・シーボルト 医学の歩みの史実2022/09/03