内容説明
民間人ただ一人のA級戦犯として巣鴨刑務所に拘留された大川周明。下駄履きのパジャマ姿で出廷し、東条英機の頭を叩いた奇矯な行動は有名だ。だがそれは、インドやイスラームの宗教哲学を根幹とする特異なアジア主義者であり、戦前の軍部や政府指導者に影響を与えた国家主義者の真実の姿なのだろうか。精神鑑定の結果不起訴となった大川周明に焦点をあて、獄中日記、検事の訊問調書、大政翼賛会興亜総本部長の戦災日記などの史料を駆使し、東京裁判のもう一つの深層を焙りだす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まると
24
「小説東京裁判」の副題で、居並ぶA級戦犯の中から松本清張が取り上げたのが、発狂して裁判が取りやめとなった右翼の超国家主義者・大川周明だったところに面白みを感じる。ドイツを裁くのと同じ立て付けで日本を裁くことの無理筋を説くのであれば、他にも題材となる人はいたであろうに。そこは思想的な背景よりも、法廷で東条の頭を叩くなどの奇行が物議を醸したこの人への度し難い関心があったからに違いない。裁判2か月前の調書を読む限り、受け答えはしっかりしていただけに、本当に狂っていたのか、謎めいたところが多く、興味をそそられる。2024/12/31
rubix56
3
☆☆☆ 1h とばしながら、読了。 民間人として、A級戦犯となった、大川周明の話。著者が古本屋で、たまたま購入した古い日記。買った、当初はいつかの小説の資料になればという軽い気持ちであったらしい。日記の主は大川氏と非常に近しい関係であって、終戦から東京裁判ぐらいまでの大川氏との私的な交流が書かれている。よって、タイトルが東京裁判となっているが、大川氏の回りの話がかなりの割合を占めている。 また、小説の定で書かれているが、あまり、小説のようには感じなかった。2015/02/12
うたまる
2
「困った噂が拘置所の中にある。大川さんはニセ気狂いを装っているんじゃないかとね」……東京裁判に召喚された唯一の民間人でありながら精神障害で免責された大川周明を軸に描くノンフィクション。副題に”小説”と付されているが、著者が偶然手に入れた史料の引用が多いためと、東京裁判自体の虚構性のため、かなり取っ散らかった印象を受ける。そんな混沌の中でもハッキリと光彩を放つ大川周明の知性。訊問調書の中で語られる彼の先見性や志向、大局観は一読の価値あり。軍人が彼に傾倒したのも無理はない。うん、奴なら詐病もアリかと思う。2017/08/06
yoyogi kazuo
1
小説としての完成度は低いが、東京裁判と大川周明について松本清張が取り組んだ意義がこの小説の価値。昭和史発掘の補遺として読めば興味深い。2021/10/15
スターリーナイト
1
2020-1002020/12/16