内容説明
入院中、同室となった男に、盛り場で雀荘を経営する妹の安否を確かめてほしいと頼まれた大学生の〈私〉は、戦後の焼け跡が広がる仙台の街を、彼女の影を追ってひたすらにさまよう。米兵相手の特飲街に、彼女はいた。だが、そこには危険な男たちの影がうごめいていた――。米兵が闊歩する戦後の仙台を舞台に、日本ハードボイルドの黎明を飾った「X橋付近」ほか、日本人娼婦と米兵の炎熱の夏の悲劇を乾いた筆致で活写した「ラ・クカラチャ」、北海道の原野に消えた友の追跡行を描く「淋しい草原に」、そしてひとりの〈運命の女〉を追う連作「由利」シリーズなど11作品に、エッセーも収録した、高城高、珠玉の短編集!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
25
「X橋にて」は作者の分身の変化してしまった非情な世の中への視点よりも8章のある人物の静かな心境の方がハードボイルドだと感じました。生活苦や日常の鬱屈に押し潰された人々を突き放した目線で鮮やかに描く「廃坑」や「ラ・クカラチャ」、真相が陰惨だったからこそ境地が際立つ「淋しい草原に」が印象深いです。弱かった女の魂の彷徨を描いた由利シリーズも心に残ります。エッセーも「ハードボイルドとは何か」ということが論じられており、高城氏のハードボイルドへの真摯な思いが伝わってきます。この人の作品が本当に愛おしいです。2013/03/27
ひねもすのたり
16
本書は著者の代表作である『X橋付近』を収めた作品集。 日本でハードボイルドといえばバイオレンスやアクションと混同されがちです。いずれも昭和30年代に書かれたものですが、ハードボイルドとは何か?という問いに対して明確な答えを出している作品群と言って過言ではありません。 巻末に収録されているハードボイルド論にはハメット、チャンドラー、ロスマクに並んでヘミングウェイとフィッツジェラルドを俎上に載せています。 ここしばらくチャンドラーの新訳を手掛ける村上春樹さんの文学論と共通する部分があるように感じました。★42017/05/01
ネムル
13
日本ハードボイルドの夜明けを飾る、昭和30年代の作品群。戦後に進駐軍が駐留した仙台や北海道の場末を舞台に、虚無たい人物関係や行き場のない自嘲が、過度にじめっとならない文体で描かれる。戦後闇文学の佳品揃いで、この全集はおって読んでいきたい。2021/02/04
さんつきくん
6
昭和30年前後の仙台を舞台に、薄暗い世界で鋭い視線が交差する、高城高さんの短編集。ハードボイルド。初めてこの手の小説を読んだ。進駐軍や数々のお酒が交わり、感の良さ、駆け引きはスリルがあった。「X橋付近」、「淋しい草原に」が個人的に好き。そして、数奇な運命を辿る志賀由利シリーズ。仙台ですれ違った感情から男性を憎み、フェンシングの勝負に賭け、北海道、果てはスペインまで流転した運命。翻弄されてるけど、かっこいいって印象を受けた。2014/05/17
山田太郎
3
なんてことない話だけど、文章がうまいと思うのよ、これが。2008/07/07