角川文庫<br> 夜はやさし(下)

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角川文庫
夜はやさし(下)

  • ISBN:9784042976028

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内容説明

スイスで友人と病院経営をはじめたディック。ニコルとの関係はおだやかに見えるが、ローズマリーの出現以後、何かが決定的に変わっていた。ニコルの父の危篤、ディックを襲う疲弊とアルコール中毒、ローズマリーとの再会、そしてニコルの病からの目覚め――運命が結んだはずの二人の絆が崩れゆく様は、荒漠とした哀しみを湛えずにはいられない。賛否両論を浴びながらなお世界中のフィツジェラルド読者に最も愛される作品。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

まふ

107
ディックはニコルの資金援助で友人のフランツと精神病院を共同で設立し順調な経営を行う。が、ローズマリーの出現で心が動き、それを酒で押さえつけるがニコルへの愛情と思っていたものがニコルには監督者のような重荷に感じられて二人の仲は次第に冷え切る。ニコルはほぼ完治状態となり自分に自信が付き、酒におぼれるディックを避けて新たな恋人を見つけ出す…。結末は悲劇に終わるものの、ニコルが完全に治癒するのがせめてもの救いの道であったといえるか。問題の父親はトンズラして行方が分からないのは中途半端であった。G487/1000。2024/04/17

えりか

58
なんとなく「人間失格」を思い出した。あんなに破滅的ではないけれど。人生が上手くいかなくて、誰かのせいにしたり、何かに逃げたり、他人への献身、そのくせ人を傷付けてしまったり、「昔と今」「他人と自分」のバランスが掴めなくて、上手く折り合いがつけられなかったり…「これは私だ」と…。表面的には皆に好かれていたディック。でも彼は一人ぼっちだった。愛がなかった。愛とは同情だけでも情熱だけでもなくて、それはやさしく柔らかな夜のように包み包まれることなのだと思う、そうやって愛していけたらいい。2016/11/12

市太郎

57
これは基本的には未完成の小説で詰めが甘い箇所もあるが、それでも作家が語る通り深いところで我々に訴えかけてくるものがある。この人生の破滅の物語が心に沁みるという事は自分なりの栄光を経験しているのであり、その後が一刻一刻と色褪せていく事を僕は知っているからだ。夜はやさしと感じられるのはつまり闇と同化せざるを得ない精神状況を物語っているのであり、フィッツジェラルドのその精神は今の僕には他人事とは思えない近寄って抱きしめたくなるような精神である。この小説に眠る、震えている人間の心がつまりあなたの心だ。2014/05/09

長谷川透

25
読み進めるのを拒む小説がある。そのような小説の多くは文体や物語が難解な小説である。『夜はやさし』も読者をな前へと運ばせない小説だが、その原因は決して難解さではない。著者がこの小説を書いている最中の実生活上の苦しさが、オリジナル版から改編された本版からさえも伝わってくるからだ。たまらなく痛々しいが、時にぞっとするくらい美しい。ある男の崩壊過程の物語。ディック=著者と限定すべきではないと思うが、この小説がフィッツジェラルドの晩年を予見してしまっているから、単純に物語を楽しむ、では終われない恐ろしい小説である。2013/05/15

かふ

22
下巻になるとディックのアメリカ人の傲慢さと英雄主義的な男尊女卑思想が全開で、様々なトラブルに巻き込まれる。女性の意見はほとんど聞き入れることがなく、自己中心的な性格が禍して、イタリアで逮捕されたり思うようにならなくなるとアルコール依存症になっていく。その下り坂の運命とは逆にニコルはディックから離れていくがそれが彼女の精神にはいい影響をあたえていく。フィッツジェラルドは、多少なりともゼルダに対して希望を示す道を示したかったのではないか?物語はディックの崩壊物語だが、『失われた時を求めて』の影響も感じた。2023/01/14

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