内容説明
維新後間もない日本の奥地を旅する英国女性を通訳として導いた青年イトウは、諍いを繰り返しながらも親子ほど年上の彼女に惹かれていく――。イトウの手記を発見し、文学的背景もかけ離れた二人の恋の行末を見届けたい新米教師の久保耕平と、イトウの孫の娘にあたる劇画原作者の田中シゲルの思いは……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
454
私たち読者は2つの時間を追体験することになる。亀吉が生きた明治の時間と、耕平やシゲルが生きた現在時とである。タイトルは何故「亀吉の恋」あるいは「伊藤亀吉の恋」ではなくて『イトウの恋』であったのか。亀吉とシゲルとの接点は娘の娘の娘とはいえ、きわめて薄い。だが、かつて実在した亀吉が「イトウ」として抽象化されることによって、それは2つの時空を超えてゆく。イトウは2つの世界を通訳によって結びつけたのである。そしてイトウの物語は円環を結ぶ。一方、現在時の物語は終結しない。それはまさに今がこの時間だからに他ならない。2021/01/10
KAZOO
146
はじめはこの題名は魚の「いとう」かと思ったのですが、イザベラ・バードの付き人して日本奥地を探検した人の話なのですね。私は日本奥地紀行とコミックの「ふしぎの国のバード」を愛読していますのでこの本にも興味を惹かれました。現代から昔にさかのぼったりして若干の読みにくさはあるのかもしれませんが、じっくり読んで楽しみました。この著者の「FUTON」も田山花袋からみで読みたいと思っています。2017/08/16
yoshida
129
イザベラ・バードの「日本奥地紀行」に着想を得た作品。バードの通訳として旅に同行していた伊藤鶴吉。最近は「ふしぎの国のバード」として漫画化され注目されている。漫画では妙齢の女性として描かれるバード。実際は当時のバードは40代。伊藤とは20歳近い年齢差がある。だが、旅を共にしたふたりの心に芽生える思慕を巧みに描く。伊藤の子孫を登場させ現代と交錯させる手腕も見事と思う。ふたりに恋があったかは分からない。だが、困難な旅を通じて確かな絆はあったと思う。中島京子さんの着想と想像力が古典に新たな息吹を与える良作でした。2020/09/14
buchipanda3
101
「だけど人生はいつだって誰にだって不可思議なものだから」。文章のリズムが合うのか読み心地が良かった。題名にあるように恋ものだけれど少し風変わり。人生の不思議な巡り合わせに恋をするというか、現代も明治も異なる世界の者との出会いは自分を改めて見つめさせる。実際、亀吉(史実の方は鶴吉)もシゲルも意地っぱりなところは瓜二つ。だけどどちらもIBと耕平という割と純粋で偏見もなく好きなものにまっしぐらな者に心を解きほぐされていく。やがてシゲルは曽祖父の生き方に恋をするように自分も未来を手探りで手繰り寄せ始めたと思えた。2025/09/24
chimako
92
味わいのある作品だった。実在の人物とは言え、主人公のモデル伊藤鶴吉を知っているのはよほどの歴史好きか。彼が恋心を抱く女性冒険家?イザベラ・バードは記憶の角に微かな引っ掛かりがある程度。二人の生涯を検索しつつ「年の差29歳」に驚き、I・Bにして「私はおまえといっしょに旅をすることができない。」と言わしめたのは仕方がないと思われる。もし彼女に子どもがいれば同じくらいの年だろう。その二人の恋の話を仕立てる作者の思うツボに嵌まりながらの読書だった。現在の二人の進展も気になるところ。赤堀真が良い味出していた。2018/05/20




