内容説明
「昭和の戦争の時代を、「知恵の悲しみの時代」として、その時代に遺された本を通して書くこと。この本に取りあげたのは、戦争の時代を語る大きな物語ではとりあげられることのない本がほとんどですが、気もちの素となったのは、昭和の敗戦後すぐにでた世界古典文庫版で読んだ、グリボエードフの死に同時代人としてプーシキンが寄せた言葉――「すぐれた人々は跡形もなくわれわれの許から消えてゆく。われわれは怠惰で無関心である」――でした。この本に書きとどめたのは、戦争の時代の奔流、増水、氾濫の記録ではなく、戦争の時代の見えない伏流水の記録です。この小さな本の試みが、「われわれの怠惰と無関心」の先に、すでに「跡形もなくわれわれの許から消えて」ゆこうとしている一つの時代の遺した言葉と記憶を、いくらかでも鮮明によびもどすことができれば、望外です。」(本書「あとがき」より)月刊「みすず」好評連載を再編集加筆のうえ一本に。『私の二十世紀書店』の著者ならでは書けぬ名著がここに生まれた。
目次
2001年、秋の朝―プロローグ
1894年にはじまる
人びとを、人びとが、人びとのために
言葉の生き生きとしたかたち(1930)
「複白」の思想(1931)
セルパン臨時増刊野球号(1931)
理解せよ、忘れるな(1932)
マルクス・アウレリウスの戦争(1933)
合言葉はエミイル!(1934)
小河内村水没(1936)〔ほか〕
感想・レビュー
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マッピー
12
昭和の戦争の時代に遺された本から、伏流水のような言葉と記憶を書きとどめること。「不戦六十年」を過ぎたいま、この国の自由と「言葉のちから」を問う。昭和の戦争の時代を「知恵の悲しみの時代」として、その時に作られた本、綴られた言葉。決して大きくはなかったそれらの言葉にもっと耳を傾けていたら、あの時代は「知恵の悲しみの時代」にはならなかっただろうに。時代をけん引する言葉、時代を壊す言葉。そんな大きな声で語られる言葉ではなく、詩人・長田弘が救い上げた言葉はしみじみと現在の私たちを包み込み、あの時代を思い起こさせる。2019/10/11
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