内容説明
ドイツの神経研究所で学ぶひとりの日本人精神科医。彼が遠い異国へやって来たのは、人妻との情事に終止符を打つためでもあった。ドナウ源流地帯、チロルの山々、北国の町々――ヨーロッパを彷徨う彼の胸に去来する不倫の恋への甘美な追憶、そして、作家としての目覚めと将来への怯え。著者自身の若き日の魂の遍歴をふり返り、虚構のうちに再構成した《心の自伝》。『幽霊』の続編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
双海(ふたみ)
16
ドイツの神経研究所で学ぶひとりの日本人精神科医。彼が遠い異国へやって来たのは、人妻との情事に終止符を打つためでもあった。ドナウ源流地帯、チロルの山々、北国の町々――ヨーロッパを彷徨う彼の胸に去来する不倫の恋への甘美な追憶、そして、作家としての目覚めと将来への怯え。著者自身の若き日の魂の遍歴をふり返り、虚構のうちに再構成した《心の自伝》。『幽霊』の続編。(内容紹介より)2014/10/05
くろすけ
16
文学者・北杜夫誕生の書。幼少期からの憧れが結晶したような恋人への身を焦がす恋情と、「自分は何者で、どこから来てどこへ向かうのか」という自我の悩みに、医学研究員として赴任した異国で孤独に煩悶する。 曇って冷たい印象のドイツの街の描写、そして傾倒するトーマス・マンに導かれるように辿るドナウ源流地帯からデンマークへと至る旅情に満ちた風景が、「ぼく」の苦悩する精神世界と一体となって、感動的な文学作品。2013/10/17
きつね
8
鴎外、茂吉、トーマス・マンに重ねて虚構化された「心の自伝」。人妻の幼さに振り回された過去を、忘れるために留学にきたドイツでことあるごとに思い出す達夫は、やがて医学でなく文学を志す。マンの文体は模倣反復できないし、人妻との恋はまだ書けないから自分の文体、感性をつたえる文体で幼年期を書こうと思い立つ。そして書かれたのが先行作品の『幽霊』であるということになる。 ただし、文体でいえば『幽霊』に比べて削ぎ落とされたところも見受けられるし、書けないという恋のことも断片的にせよ書いてある。そして「ぼくが彼女のことを、2015/01/22
amanon
6
北杜夫ってこんな小説を書く人だったんだ…とちょっと驚き。先に読んだ『夜と〜』の「羽蟻〜」の背景になったのが本書だったのか、と納得させられもした。子持ちの人妻でありながら、幼女のような無垢さをも併せ持った倫子の性格、一部男性にはたまらん存在だが、同性からは不興を買いそうな気がするのだが、どうか。また、今では考えられないくらい、海外が遥かに遠い世界だった時代のドイツ留学の過酷さに改めて思いを馳せた次第。そして何より印象的だったのが、幾度となく繰り返されるマンへの思い。「トニオ〜」を強烈に読んでみたくなった。2021/08/21
方々亭
5
幼年期少年期の物語である『幽霊』の続編。人妻との不倫を精算しドイツへ医学留学している主人公が、私淑するトーマス・マンゆかりの地を旅する。分かれた人妻との思い出に苛まれる。『幽霊』とは異なって、全編にほろ苦さが漂っている。三部作になる心づもりだったようだが、続編は書かれなかった。どんな物語になったのだろう。2022/09/22




