内容説明
芸人にとって断食はしかたなかった。なぜなら「口にあう食べものを見つけることができなかったから」。『変身』のカフカによるこの短編をよく読んでみれば、そこにはラストメッセージとしての奇譚がくっきり浮かび上がる。不幸であることを書いて寓話になりきれない〈わたし〉の文学に、いまこそ私たちの世界が追いついた。
目次
第1回 読解ゲーム(1節、断食芸人たちと、この断食芸人 檻とガラスの箱 2節、“公衆” ほか)
第2回 “わたし”の寓話(作品と作者 寓話になりそこなった寓話 アルキメデスの点 ほか)
第3回 “わたくし小説”と“私小説”(私小説の伝統とカフカ カフカとカサイ 「贋物」(一九一七)
「不幸であること」(一九一〇)
自由で無拘束な文学的ジャンル
幽霊との対話)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tonex
6
『カフカ「変身」注釈』の著者による、『カフカ「断食芸人』注釈』とでもいった感じの本。《高校生が読んでわかりやすい》教養書のシリーズの一冊として書かれたものだが、論旨が明確でなく、正直わかりにくかった。好意的に解釈すれば、わざと論旨をつかみにくくして、読者に自分の頭で考えさせようとしている、ということだろうが、単に思いつくまま文章を書いているだけだと思う。▼カフカと葛西善蔵との比較はユニークだが、こじつけに思える。しかし、それはそれとして、葛西善蔵の小説といつかきちんと向かい合ってみたいと感じたのは確か。2015/12/07
ひろゆき
1
カフカの遺書の位置づけ。バルザックが人間喜劇として様々な階層と職業の人々を書き分けたのに対し、カフカは私をどの様に描くかのみを追究したとのこと。冒頭に「断食芸人」を置き、その解釈の手がかりを講義するが、どのように解釈するかまでは断言しない。ドイツ語からの翻訳によって抜け落ちたものなど解説はためになる。葛西善蔵との比較があるが、さほどは胸に落ちず。2018/11/02
autumnmotor
1
著者による原文の翻訳、テキストからのみの解釈、作家性からの解釈、私小説としての解釈から構成されている。作品のディティールの細かな説明は読解の助けになり嬉しい。作品に対する読者の接し方、特に翻訳作品に対する注意を持った接し方の心得は襟を正される思いだ。作家性からの解釈は、主人公=作家という俗悪で安易な読みを否定するところから始まりつつも、カフカの作品においては実はそうであった(かもしれない)という指摘はスリリングで興味深い。私小説的な解釈は若干実りが貧しいように感じたが後は読者が自身で付け加えるべきであろう2013/11/24
アキヒコ
0
15ページ7行目12文字目と13文字目の間には「の」が抜けているそうです。2013/07/17
g830165
0
『カフカは、この世での自分の生を、〈傷〉として体験してきました。(中略)いずれにしても、傷が彼の文学なのです。』2012/01/23