内容説明
若くして父となったかれは生活のため配電工となった。都市生活者の現実に直面するうち3人の子供の父となり、妻はすでに子供たちのものになってしまった。今日も短絡事故(ショート・サーキット)が起こり、現場にかけつける――。野間文芸新人賞受賞の表題作に、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「木を接ぐ」をはじめ、働くということ、生きるということをつきつめた瑞々しい初期作品5篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
66
回想を重ねながら、自分のことをあらわにしていく手法が勉強になった。楽しい話ではあきらかにないのだが、ちょっとした会話やお子さんの存在などに救いのきらめきが確かに存在するのが、うまいなと思う。2018/10/04
佐島楓
62
再読。男の狡さや弱さを描きながら、同時に泥臭い生活を精緻に彫刻している。鋭い筆は、格別初期の作品に深く振るわれているように感じる。一度手放したが、読みたくなったのでまた買い直している。この選択は正解だった。2022/04/28
fseigojp
8
とにかく文章がうまい そしてお仕事系の私小説としても最良 この後、離婚して草木染の先生と再婚し、海外留学にもついてゆく。。。。なんとも、うらやましい2015/07/10
マカロニ マカロン
7
個人の感想です:B+。お仕事系私小説。電気工事士の青年が主人公の短編3作。表題作は1990年の芥川賞候補作。著者の佐伯さん自身、電気工の経験がおありのようで、過電流継電器とか、絶縁抵抗値、圧着ペンチ、MΩとか専門用語が次々出てきて、何やってるのかよくわからないところもある。しかし、そんな電気工事をやっているのは、小児病や学校緘黙症に苦しむ子の父でもあり、妻との不仲に悩む夫であったりもするごく普通の男。仕事と家庭の両立を図ろうと懸命に生き、時にはハメをはずす。自分のことのように共感を持って読み進んだ。2018/01/11
三柴ゆよし
7
スキャンダラスな私小説と静かな心境小説の中間に位置する絶妙な短篇群。収録されているのはそれぞれ独立した作品だが、ひとつの家族の成立から崩壊までを淡々と描いた連作小説としても読めるようチョイスされている。なんてことない日常にもドラマはある。自分にしては珍しく、作者の分身と思しき主人公に、感情移入しっぱなしだった。冷静なコメントは出来そうもないのでここまでに。2011/04/04