内容説明
内科医として、保健衛生学徒として、国立環境研究所所長として、長年「いのち」をみつめつづけてきた著者が、人間と環境の生命をトータルにはぐくみ、もてなすための道程を綴る、滋味あふれるエッセイ集。西洋医学のすき間を埋める今日的な統合医療のあり方、認知症(痴呆)老人の不安とケア、人生の終末期に向かう人びとにとっての生きがい、そして地球温暖化問題に現れている、地球という閉鎖系の環境世界――。私たち一人一人の「いのち」から、私たちを生かしている環境の「いのち」まで、自己と生命とのつながりを受けとめ、こころすこやかに生きるヒントがぎっしり詰まった一冊。
目次
1 医療がはぐくむ「いのち」(健康と病気を考える18のヒント あたたかくもてなす―痴呆老人の不安とケア お年寄りのこころ 痴呆老人とがん疼痛―なぜ痛みを訴えないのか 老人医療と死をみつめて禅の心を思う 「自分」のあり方で決まる死の意味)
2 環境がはぐくむ「いのち」(環境問題をどう考えるか 環境と「いのち」―宮沢賢治とアメリカ先住民の環境観に学ぶ 環境と私たち―つながりの世界認識 ほか)
3 「いのち」への途上で(保健師さんから学んだこと ネパールからの便り アラル海が語ること ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sakie
14
環境問題から終末期医療まで語れる珍しい経歴をお持ちの医師の著述集である。医師である人に「ペンタゴン・レポートが」なんて言われると面食らってしまった。しかし当然ながら、環境と人体は無関係ではない。流入流域の灌漑工事によるアラル海の縮小や日本の公害などは、人間による環境破壊と周辺住民の健康被害が関連する問題であり、医師の知見の生きる社会医学という分野なのだと知った。限られた資源を収奪する技術が進歩するほど、人間のこころの未熟さは強調されるとの指摘が鋭い。まさに歴史の全ては我れが我れがの帰結である。2022/07/04