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内容説明
悲劇のヒーローという日本人好みの物語として、次第に形作られた義経伝説を、『平家物語』諸本や『吾妻鏡』、日記などと比較しながら解剖。武家社会と貴族社会との対比の中で、天才的戦略家の実像に迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サケ太
20
源義経とは戦の天才か、それとも政治の分からない猪武者か。近年では否定されつつある鵯越から、舟の漕ぎ手を射るなどの戦法を踏まえて、義経がどのような武将だったかを探る。戦いの実像を見ていくと、平家物語における義経の活躍は鮮烈ながら虚飾に満ちたものであることがわかる。多田行綱の活躍も実際はどうだったか気になる所。義経の合理性や京の治安維持における有能さ。それが御家人たちの不満を生じさせ、彼ら望んでいた鎌倉幕府の在り方との齟齬を生じさせた。堅実で合理的な武将の姿を感じさせつつ、孤立した男の背を見た。2022/01/05
Toska
18
義経の合戦(戦術)のみならず、戦略的な側面にまで踏み込んでいくのが本書のキモ。単なる軍人ではなく、朝廷との関係を作り、京洛の治安維持に努め、頼朝の代理人として働くのが彼のミッションであり、義経はこれをそつなく果たしたことになる。それでいて合戦にも強かったから、後に政治音痴の戦争屋的なイメージが作られてしまったのは何とも皮肉。源平合戦が主に義経視点で語られるのも、彼が京都の貴族たちと良好な関係を築き、彼らを通じて義経の功績が喧伝されたためらしい。割を食った範頼が気の毒だ。2025/01/24
mk
3
一の谷や屋島、壇ノ浦の戦況に関する事実関係の整理や、史料相互の比較検討の作業における綿密さもさることながら、従来のいわゆる「義経もの」のなかでも意外に乏しかった、戦略面での分析を徹底させた本書の議論は読みごたえ十分。義経が持ち合わせた「合理性」(これを軍人の素質として安易に一般化せず、政治的力量にも通じるものと評価する点、著者の慧眼だと思う)を強調する理解は、戦場の義経のリアリティに密着してきた著者だからこそ語りうる説得力をもつ。その意味で、私的には第3章「在京代官として」の論述を、本書の白眉に推したい。2018/10/29
うしうし
2
九条兼実『玉葉』の記述から、いわゆる「鵯越えの逆落とし」は義経の戦略ではなく、多田行綱が行ったものであることを初めて指摘した書籍。今ではこの著者の新説が、研究者の中で市民権を得ており、逆に通説となっているように思う。これだけではなく、義経上洛の目的・自由任官問題・屋島合戦時における上陸場所など、通説とは異なる独自の解釈を、『平家物語』や『吾妻鏡』の史料批判を加えた上で展開している。注目すべき書籍である。2015/06/22




