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内容説明
「個で生きる」というと、すぐにヨーロッパ近代の個人主義が連想される。しかし、そもそも「個人主義」という考えは、どんな発想のもとに作り上げられてきたのだろうか。本書では、ヨーロッパ個人主義の源流を、古代ギリシアと、キリスト教、そして、中世スコラ哲学の内に再発見し、その思想の底にあるものを洗い出すことによって、そこから現代日本人が、この不安な社会の中で生きていくためのヒントを探り出す。「孤立」を恐れることなく、また、そこに逃げ込むこともなく、しかも、「ただ一人でも生きられる精神」の可能性を問う一冊。
目次
序章 個人主義を考える意義
第1章 個の現実と個の思想(個であるとはどういうことか 思想とペルソナ 個の思想とはなにか)
第2章 「個であること」の資格(尊大なペルソナ 関係の中にあるペルソナ)
第3章 かけがえのない個人(個別性とペルソナ 思惟の孤独の中にあるペルソナ 「自律する個」の思想再論)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
23
フランシスコ会の僧であったドゥンス・スコトゥスの思想の源泉を、このアッシジの聖者の無所有の生き方にたずねるところが驚きだった。無垢の人間には主権がない、したがって所有とは罪であると言う。所有とは窃盗であるというプルードンの考えを13世紀にすでに先取りしている。一切の所有と依存を捨てて生身の人間の顔と向き合うことで初めて「個」が見いだされる。依存を捨てる窮極的孤絶には神の拒絶さえも含まれる。人間には神を信ずる自由も信じない自由もあるというのだ。カトリック教会の埒外にはみ出すほどの大きな思想。2019/03/04
さえきかずひこ
15
ヨーロッパに生まれた個人主義という思想の淵源をたどって、著者の専門であるドゥンス・スコトゥスのペルソナ論について解説する一冊。本書の後半では、トマス・アクィナスのそれとスコトゥスのペルソナ論が対比的に紹介され、神学的な議論に覚えがない読者にも分かりやすいように配慮されている。西洋中世の思想史に何となく関心があるような方は読んでみると面白いと思う。神のペルソナが雛形となり、しかしそれとは別に被造物である人間においては"個別化原理"が働いて"個人"が成立したとする第3章の議論にはたいへん興味深いものを感じた。2019/06/20
うえ
3
アリストテレス→イスラム解釈(被造物は全て平等)→ペルソナ論があった欧州(人間以外は全て平等)→近代(ペルソナの威厳がない奴隷は動物と同じ)●「アリストテレスには実験科学の思想はまったくない…あるのは観察と理論である…イスラム教アラブの世界においてはじめて…実験が行われた」「実験の観念が生まれた理由はイスラム教がきわめて実践的な宗教であって理論派ではなかったこともある」☆「日本人はやさしさや上品さを「理性」とセットで考えがちであるが、それはヨーロッパの思想伝統からすると、子供じみた発想である」2014/12/05
Go Extreme
1
ヨーロッパから来た個人主義思想 利己主義と混同されやすい個人主義 個人の主体的活動による社会 社会から離れた「個の思想」 社会との不適合や自己の思索から生まれる思想 ペルソナという尊厳性を持つ概念 質料形相論では議論できない領域 実体即関係という注目すべき概念 思惟の自由が個々人の精神を別々にする 共有不能性がペルソナの基盤 思惟の世界は現実世界から離れて孤立 神のペルソナが示す孤立性 信仰抜きにもペルソナが成立 この今ある現実の神への依存心の否定 ぎりぎりのところまで孤独になる2025/05/08
やみー
0
ヨーロッパの個人主義ないし理性的な個人という考え方は中世後期に用意されたということと著者なりの西洋人の理性観についての2つが重要なんだから、それのみに注力すればもっとスッキリしたし、踏み込んだ話題も提供できたのではないだろうか…… そんな本。2017/06/06




