内容説明
身体が不自由で孤独な一青年が、小倉在住期の鴎外を追究する芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が、業績を横取りされる『石の骨』。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかり学界から顛落する『笛壺』。他に9篇を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
291
松本清張といえば、『砂の器』などに代表される推理小説、あるいは社会派小説、また時には時代小説もといった多彩な作家だが、出発は純文学だった。本書収録の表題作「或る『小倉日記』伝」は第28回(1952年下半期)の芥川賞受賞作である。森鷗外の小倉時代の事績をめぐる物語であるが、小説としての完成度はきわめて高く、新人のものとは思えない。また、後年の清張の特質が既にここに胚胎している。すなわち、一つの手がかりが次の行動を生むといった、いわゆる探偵小説の技法と、市井に埋もれていた田上耕作に光を当てたことがそれである。2015/04/03
遥かなる想い
254
第28回(1952年)芥川賞。 森鴎外の小倉時代の日記を題材にした 作品である。 田上耕作という人物造形には 後年の松本清張の 片鱗がうかがわれる..社会的に恵まれない者が 周りに冷たく あしらわれようとも 必死に生きる..その様を骨太に描くのが本当にうまい。 大作家の若き日々を読んだ、そんな感慨に 浸れる本だった。2017/06/22
青乃108号
175
推理小説ではない、松本清張の短編集。少しずつ読んでいたらえらく時間がかかってしまった。短編なのに濃い。ここには幸せな人生は無い。あるのは人間の執念、情念、諦念、その他人間の不幸の味三昧。他人の不幸は蜜の味とは言うが、もう十分ですお腹一杯です。続けて読むとえらく疲れるので1日1話ずつ読むのが吉。2023/06/30
mariya926
118
あり方にお勧めされて読みました。特に「或る小倉日記伝」は第28回芥川賞受賞作品でした。実際に存在していた人をモデルに鴎外の明かされていなかった時期を調べあげていく内容。それ以外にもかなりリアルなので本当に実在する人物がいるのかな?と思いながら読んだのも、すべてモデルがいたみたいです。今まで読んだ作家さんとは少し毛食が違いましたが、それでも面白く読了できました。途中、読むのに少し時間がかかったのもありしたが、なかなか興味深い内容の短編もありました。2026/02/07
kazuさん
94
松本清張の短編集の中でも、特に心に残ったのは《父系の指》である。父のこと、そして父方の叔父のことが静かに、しかし深い感情をもって語られている。物語の一つひとつの描写には、清張が幼少期に見た家族の姿や、社会の厳しい現実がにじんでいるように思う。貧困の中で働きづめだった父親、それを見つめていた少年の日の清張。その視線は時に冷静でありながらも、底には深い敬愛がある。清張の父親像は、単なる回想ではなく、清張自身が人生の基盤として大切にしてきた「父の原像」そのものだと感じた。2025/10/21




