内容説明
奥飛騨(おくひだ)の山荘へ、震災で家族を失った、かつての隣人の三姉妹を引き取った希美子(きみこ)。さらに姉妹を頼って来た七人の少女も受け入れることに。ある日、カナ江にまつわる衝撃的な噂を聞いた希美子は、山荘の森にある巨木〈大海〉の根元から不思議な水差しを見つけた。なかには、一通の封書と、小さな骨が……。希美子はカナ江の謎に満ちた生涯を追う。喪失した魂の復活をうたう大作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ろくせい@やまもとかねよし
188
上巻から一変し、慣習や政治や戦争を絡めた個人の歴史の謎解きへ。素直な印象は女性の社会的地位向上が主題だったか。説教くさい描写は鼻につくことも。しかし用いる話題はあまり偏向なく宮本さんの広い教養に感服。慣習や戦争で理不尽に制限されていた庶民の活躍の場は徐々に解放されるが、知的なものや精神性の高い世界へ探究が不可欠だと提案する。一方、尊重されるべきそれらの探究に驕ることへの警鐘も。人間はほとんど理解されていない自然の中で生きており、生かされている。言葉で言い表せない自然への畏敬に謙虚でなれなければならないと。2020/03/22
ユザキ部長
84
戦争で生き残った人達、震災で難を逃れた人達。「うしろめたい」と思う気持ち。どう生きていくか。森のなかの深い海で探していく。なぜならその大木はすべてを受け入れ動じない。虚空に道あり。天眼は此をみる。2020/04/29
chikara
68
再読。毛利カナ江と室谷宗弥、そしてその子である典弥。時代背景から逃れられないとはいえ、なんと壮絶な運命に翻弄されたのだろう。また、震災と夫の裏切りという悲劇に見舞われた希美子。そして、様々な木々が絡み合い、全てを受け入れて動じないターハイ。想像を超える痛手から救ってくれたのはターハイであり、カナ江であり、典弥であり、三姉妹と七人の少女達との人間同士の繋がりだったのです。素晴らしい物語でした。また読みます。2016/07/01
佐島楓
55
やはり言動を重ねていくことで浮かび上がっていく心理描写がいい。人は生まれながらに哀しみを背負っている。それに気づいたときが、本当の人生のスタートなのかもしれない。2016/01/09
さよちゃん
38
奥飛騨の森の中での共同生活を送るなかで震災によって心の奥底に潜む目に見えない恐怖だったり大切な人を失った悲しみに耐えながら前向きに生きていく姿に感動しました。 新たに、自分のやりたい事や、夢を見つけ挑戦するために旅立つ者が一人、また一人と・・。イッチヤン姉妹、希美子の息子達のその後が気になります。そして、マフウも・・。いつも思うけど、戦争でさまざまな能力のある若い人々が戦地に赴き沢山の命が失われ、戦争の為に生活が変わってしまった人たち。毛利カナエさんが気の毒でたまりません。読み応えのある本でした。2013/06/24