内容説明
ある日学校の帰り道に、「もうひとりのぼく」に出会った。鏡のむこうから抜け出てきたようなぼくにそっくりの顔。信じてもらえるかな。ぼくは目に見えない糸で引っぱられるように男の子のあとをつけていった。その子は長いこと歩いたあげく知らない家に入っていったんだ。そこでぼくも続いて中に入ろうとしたら……。少年の愉快で、不思議で、すばらしい冒険を描く長編ファンタジー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
240
星新一さんには珍しい児童ファンタジー長編小説ですね。本書は解説を今年亡くなられた眉村卓さんが書かれていて氏の若い頃のあだ名がクマゴローで会合に遅刻した時、星さんが死んだ振りをされたエピソードが面白くて楽しめましたね。さて、本書は長編ながらも別々の短い異世界の物語10章を繋げた作品で少年が他人の見た夢の国に紛れ込んでしまう冒険譚になっています。児童物ですが死刑を命じる独裁的な皇帝や自殺未遂の女性といったやや過激な話もある物の上手に残酷さを回避されていますし夢と現実のどちらにも解釈可能な結末も良かったですね。2019/12/29
nanasi
171
カバーデザインは後藤 貴志さんです。初山 滋さんがカットを描いています。眉村 卓さんが解説をしています。絵本を読んでいるような気持ちになりました。個人的に「さびしい街」の雰囲気が好きです。2013/09/20
Tetchy
150
子供に読ませたい小説として最適。中学の時に、なにげに勧めた友達が大絶賛していたのがいまだに記憶に残っている。2008/09/04
新地学@児童書病発動中
135
中学生の時に夢中になって読んだ小説。今回読みかえしてもやはり面白かった。主人公の少年が旅をする夢の世界の描写に惹きつけられる。こちら側の人間が眠っているときに見る夢の世界を旅することになるのだが、突拍子もない世界ながらリアリティがあった。子供の時は気づかなかった人間の哀しみが、物語の中からじんわりと滲んでいるのを感じた。8章の「道」が特にすばらしく、いろいろなことを考えさせる。子供の時に、こんな素晴らしいお話を読めたのは幸せだったと思う。2015/10/24
のっち♬
132
語り手の少年が異次元の夢の国へ入り込んでしまう。次から次へ別人の夢に入る掌編集的作風と不条理な現実に生きる文明人の充足願望を汲む持ち味は健在。最も印象的なのが平等社会の果てを懸念する『皇帝ばんざい』、ショボクレオジサンの経歴は著者と重なる部分があり、"ショートショートの代名詞たり得ないなら死んだほうがまし"と言わしめる潜在意識が垣間見れる。芸風に対するストイックさは『道』のおじいさんに、生真面目な良識や強い自負心は『赤ちゃんたち』を救出する想念に顕現する。人生哲学やエッセイが内在する優しく深みのある長編。2024/01/08