内容説明
奥州石巻を出港し、難破してロシアに漂着した「若宮丸」の乗組員たち。十年の辛苦に耐え、日本人として初の世界一周をなしとげた彼らの記録『環海異聞』を中心に、数々の漂流記の魅力に迫る。漂流記こそ日本独自の海洋文学であり、ドラマの宝庫なのだ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆいまある
122
ノンフィクション好きにはたまらん。太平洋には北向きの潮流があり、古くは江戸時代から、何かの弾みで遭難して果てはアリューシャン列島に着いてしまった記録が残されている。大抵はその前に死ぬか殺される。そんな漂流記に取り憑かれた吉村昭による、1793年からの若宮丸の記録。ロシア政府の思惑もあり、波乱万丈の10数年の歳月をかけて数人が日本に帰り着くが、幕府の鎖国政策やキリスト教弾圧により翻弄され精神を病む。彼らはまた帰国に際し初めて世界一周をした日本人となる。ワクワクが止まらない1冊。いつか船の上で読み返したい。2021/11/06
まさ
32
吉村さんらしい記録で淡々と迫る漂流物語。江戸時代にロシア領に流れ着いた若宮丸の漂流記なのだけど、当事者それぞれの交錯する思いが興味深い。若宮丸の話に限らず、冒頭の海洋文学の章で語る吉村さんの思いや当時の日本近海の様子もうかがえておもしろい。2020/02/29
ホークス
32
海は恐ろしい。宇宙と同じくらい危険な場所であり、今迄どれだけの漁師や船乗りが死んでいった事か。遭難して奇跡的に生き長らえ、さらに記録を残せた人はごく稀だ。本書のメインは、1793年にロシアに漂着した若宮丸乗員をロシアと江戸幕府などの記録から追った漂流記である。極寒の長く苛酷な旅の中で、帰国を諦めてキリスト教に改宗する者、力尽きて死ぬ者もいる。日本との交易に彼らを利用したいロシア、その手先である過去の漂着日本人など、話が濃密である。遺されたロシア服に著者が息を飲むくだりに、物語を超えたショックと感動があった2017/09/26
ann
31
海洋文学の検証から始まり、「若宮丸」の遭難漂流を徹底的に調べ、足跡を追いかける作家魂に感動する。井上靖の「おろしや国酔夢譚」も感動したけど、吉村氏の「大黒屋光太夫」も読まなくては。2016/02/23
剛腕伝説
23
今年1~2を争う面白さだった。日本には海洋文学が存在しないと言われてきたが、作者は真っ向から否定した。日本に数ある漂流記こそが優れた日本の海洋文学だと。正にそう思う。史実に基づいた漂流記の面白さは、記録文学として、そして、冒険小説として圧倒的な力を持っている。広大な海を舞台とし、情報の無い異国人と出逢い、そして何より生命の危険を孕んでいる。生きて日本に帰れる漂流者は殆どおらず、如何に過酷な運命であったかを思い知らさられる。 作者の重厚かつ乾いた語り口が、記録文学としての興味を倍増させる。凄い一冊であった。2020/09/14