内容説明
盲目の名人・友枝喜久夫の繊細な動きの数々に目をとめ、そこに込められた意味や能の本質を丁寧に解説。舞台上の小さな所作に秘められたドラマと、ひとりの名人の姿をリアルに描き出す、刺激的な能楽案内。
目次
漂泊の人生(巌頭に立つ男―杜若(クセ)
かきつばたの庭―杜若(キリ)
女曲舞の芸人―百万(クセ))
生の幻影(地獄の風景―阿漕 水面に散る桜―桜川 人生の秋―芭蕉 人間は柳の精になれるか―遊行柳 深窓の少女―楊貴妃)
来世の予感(黄金の林―江口(クセ)
地上の菩薩―江口(キリ)
唯心の浄土―誓願寺
石の怨念―殺生石(キリ)
天女変相―羽衣
山姥の謎―山姥(クセ)
四季の屏風―山姥(キリ))
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
常磐条(ときわとおる)
0
能は伝統芸能としての様式に注目が集まっている。だが芸の面白さは型を型と見るだけでは分からない。能の戯曲としての面白さは、極めて抽象化された舞台上、人の身体のわずかな所作によって壮大な物語が時代を超えて現代に甦る。それは、どんなに言葉を尽くした小説にも表現し得ないものなのかもしれない。 友枝喜久夫の舞い、見てみたかった。・・・が、果たして著者が見て取ったものは見える人にしか見えないもの。自分にそれほどまでのものが見て取れたかどうか。。型の奥に息づくものを「見えたはずだ」と思えるように、今を生きたい。2013/07/25
ジブリエル
0
能は自分の想像の余地があるから面白いという著者の意見に大賛成!本と一緒で,そのときの自分の精神状態に合わせて同じ演目でも異なって感じるから不思議。。。最近のメディアツールには想像の余地が少ないものが多いので,能のような想像の余地のあるメディアに触れる機会が重要だと思う。
yonet35
0
何度か再読している。能を何度か観て感激したことがある方なら共感できる本だと思う。能好きな方にお薦め。2010/03/31
bittersweet symphony
0
ミニマルな舞台芸術としての能において、仕舞というのはさらに装飾要素をそぎ落とし、ひとつふたつの小道具のみで面もつけずに、舞の部分を抽出したものを言います。極限まで簡素化された表現によって、(キャパシティのある)受け手側のロゴスの深遠が喚起されて言葉の豊かな関係の絡まりあいが最終的に具象的なイメージに結びついていく様子を、機縁により年老いた能楽師の私的な舞台(稽古)を観賞できるようになった著者がその状況を描写したものです。2006/03/07