内容説明
母がいるホスピスで僕は子供の頃高原で遊んだ少女に再会、彼女は虫を一匹一匹つぶすように刺繍をしていた――。喘息患者の私は第三火曜日に見知らぬ男に抱かれ、発作が起きる――。
宿主を見つけたら目玉を捨ててしまう寄生虫のように生きようとする女――。死、狂気、奇異が棲みついた美しくも恐ろしい十の「残酷物語」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
201
『大皿の上にはハム、燻製チーズ、ゆで卵、ロールパン…』と、”モノ”にこだわる小川さんならではの表現など、”小川洋子ワールド”をそこかしこに感じさせるこの作品。そこには、怖いもの見たさの不気味な表現などもあり物語世界を堪能させていただきました。『寄生虫』や『キリンの解剖』など、読者が思わず引いてしまうような表現を敢えて魅惑的に描き出すこの作品。10の短編がそれぞれの世界観を小気味良く作り上げていく様を見るこの作品。一つひとつの作品世界に極めて強い個性を生み出していく小川さんの魅力に改めて感じ入る作品でした。2023/01/11
ヴェネツィア
180
全部で10の小品からなる短編集。現実の中に収まりつつも、そこに幽かな異和を生じさせるものと、幻想の中に入り込んでいくものとが混在するが、どちらかといえば、前者が多いか。「森の奥で燃えるもの」などは後者の代表格だが、耳の中から取り出す「ぜんまい腺」などは奇妙なリアリティを感じさせる。また「図鑑」における「目」の不気味さも捨てがたい。島尾敏雄のシュール系列の作品を思わせる。ただ全体としては、個々の作品が短いために、本来の小川洋子ワールドの濃密さにはやや欠けるようで、幾分か物足りない感は否めないか。2012/10/06
優希
124
美しくて残酷さを感じました。死や狂気、奇異の雰囲気が漂います。日常の中にさり気なく織り込まれる非日常。静かで穏やかな時間から冷たい空気へ誘われるようでした。時間が流れているようでありながら止まったようでもある不思議な感覚。必要最低限の音と世界に包み込まれているような感覚になります。2015/11/26
シナモン
109
不吉で不穏な空気に覆われている。静かな狂気…この感じ、嫌いじゃない。2023/07/30
アキ
105
酒井駒子の表紙の絵。小川洋子の短編10篇。不吉で不穏なざらりとした読後感。「刺繍する少女」母の死と消えた少女の刺繍。「森の奥で燃えるもの」眠る彼女のぜんまい腺をそっと。「美少女コンテスト」死んだ犬の背中に触れている気がして。「ケーキのかけら」王女さまの亀の最期。「図鑑」増補・寄生虫図鑑とくり抜いた目玉。「アリア」叔母の誕生日。「キリンの解剖」夜の3台のクレーン。「ハウス・クリーニングの世界」床に次々現れるしみ。「トランジット」香港の空港で木馬の淋しそうな目。「第三火曜日の発作」彼の前で起こした喘息発作。2022/01/26