内容説明
横浜を出航し、二週間余をかけ沖縄、マニラ、香港を回る豪華客船へいあん丸の旅。この贅沢なツアーに講演者として同船した作家・中小路は、寄港地沖縄でツアー客の一人が何者かに襲われる事件に遭遇。犯人は同船者と睨んだ中小路は、密かに捜査を開始した。やがて乗客たちの意外な過去が次々と明らかになり、ついに殺人事件が発生した…!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヨコケイ
1
横浜ーフィリピン間周遊の豪華客船で殺人が起こり、居合わせた推理作家が探偵する。『ナイル』に近いシチュエーションとも言えるのだが、ロマンチックさより、本邦がまだ割と豊かだった頃の風俗描写に物悲しくなる(懐古趣味でなく現況の衰退ぶりに)。或いは中津自身の紀行が元ネタゆえ、クリスティ的な多視点進行と比べ、こぢんまりした印象になったのかもしれない。散りばめられたいかにも〈旅情〉な描写が愉しいが、謎解きには寄与せず、あくまで2サス的なお話のまま。戦時下の暗い因縁が、寄港地と本邦との因縁に照応するのはむべなるかな。2021/01/01