内容説明
近代日本が生んだ怪しげな空間──衛生展覧会。人体模型、寄生虫・細菌標本、病例標本、胎児標本などの奇妙きてれつなオブジェの数々とそれを見つめる人々。国民「啓蒙」の名のもとに設置された、衛生思想普及のための文化装置を読み解く。
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目次
序 乱歩の見た夢I 衛生展覧会史 「衛生博覧会」と「衛生展覧会」 衛生展覧会の主催団体II 眼の教育 病への眼差し 「危険」のマーキング 恐怖の物語 家は侵されるIII 人体模型の祝祭空間 “暴き”の人形 病める人形の祭典 医学啓蒙と変態研究IV 健康人形と集団身体 健康人形コレクション 生ける人形の祭典V 衛生史観の変容 博愛の時代年表あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ますりん
3
まえがきは江戸川乱歩の引用から。まあそうでしょう。衛生という概念、思想が持つ、良/不良、貧/富、清潔/汚濁、優生/劣生などの強固な差別を助長する視点の提供と、自分が正しいと信じてやまない人々の薄ら暗い覗き見根性と倒錯的な性的欲望に承認を与え、そのことで更に抑圧がドライブし、差別が強固になる、というループを促す機能としての衛生博覧会の位置を炙り出していく。存外広く深い論点なのでした。昭和初期の「ハダカ体操」ブームは椅子から転げ落ちる衝撃。2020/09/26
Mealla0v0
2
戦前に大衆的人気を博した衛生展覧会。そこでは、様々な見世物を通じて衛生啓蒙が実践された。ここでの目的は、衛生に関する知識を人々に与え、なにが清潔/不潔であるかを知らしめることにある。この実践を通じ、人々の身体を見る眼差しが変容することとなる。しかし、これは単に人々が健康に気を遣うようになったという話では終わらない。というのは、衛生を実践しない者への厳しい眼差しを醸成させ、それらを摘発・報告するよう人々を駆動させたからだ。そして、それは相互監視を強め、衛生思想的な有機国家の身体としての国民を形成したという。2020/10/07
志村真幸
1
明治~第二次大戦後に大人気だった「衛生博覧会」について、多数の図や写真を用いながら紹介したもの。 伝染病、性病、人体模型といったものを通して衛生改善を訴えるための博覧会で、いまから見るとグロテスクそのものなのだが、驚くほどの盛況ぶりだったという。 貧民への差別意識、道徳的堕落への軽蔑などにあふれ、その表現方法も稚拙・猥雑だが、これでひとびとが啓蒙された時代があったということを考えるべきなのだろう。 図を眺めているだけでも楽しい。 2020/05/14
クソ太郎
0
衛生展覧会の歴史を通じ、近代的な「身体」を形作った<権力>の起源をさぐっている。文化装置のしての「衛生展覧会」の中で並存する<啓蒙>と<見世物>からは、従来の近代と前近代では一括りにできない現象が存在した。2009/05/24
澤水月
0
9409