内容説明
現代ほど犯罪が、われわれにとって重大な意味をもちはじめた時代はない。犯罪は日常領域と非日常領域の屈折した回路を巡って出現し、逃走する。この犯罪のメカニズムがもはや機能しなくなった世界ではいったい何が起きるのか。犯罪のことばのパラドキシカルな諸考察を通して、二・二六事件から連合赤軍事件にいたるまで、衝撃的な事件の闇の内部構造を鋭敏な生活感覚で照らしだす別役版犯罪原論。
目次
1 犯罪―その処方箋
2 犯罪―そのデザイン
3 犯罪―そのイロニー
4 犯罪―そのたましい
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
浅香山三郎
8
3章からなるが、「犯罪 そのデザイン」は、別役風の逆説的な犯罪の定義であり、さういふ思考を不条理劇の作家として、読者に披露し愉しませる感がある。それが、次の「犯罪 そのイロニー」では、社会学的になり、「犯罪 そのたましい」では、より人間のありやうの深みに入り込んで、その鋭さにはつとする。ちくま文庫的なエンターテインメントから、ちくま学芸文庫的な學藝の域に一冊の中で深みが増して行くやうな印象をもつた。2022/03/06
傘緑
6
「《殺人》は…いまだにそれが犯罪であることを疑われていない…もっとも犯罪らしい犯罪なのであり、それが犯罪的であることに比較したら、他のあらゆる犯罪はほとんど犯罪ではないのでないかと思われる」 劇作家・別役実の書く犯罪論。「アリバイ」「非常線」「指紋」などの犯罪に関する個々の事象の彼らしい抱腹絶倒の分析。つづく「金属バット殺人事件」「エヴノ・アゼフ」「ネチャーエフ」「連合赤軍」などの個々の事件・犯人の分析は人間が凶行へと陥る、その深淵を冷徹に抉り出している。個人的には川瀬申重の陥った魂の蟻地獄に戦慄した。2016/09/06
PYRRHUS
2
バラバラ殺人を風呂での小便に喩えるあたりは多分「別役実っぽい」と言えるんだろうなぁ。「笑える」面白さを期待して手にとってみたけれど、残念ながらそういうタイプの本ではなかった。2011/12/12
戸山香澄
1
「川瀬申重の方法」など、自身のたうち回りながら読んだのだけど、思いがけず発生当時の連続企業爆破事件のことが書かれている。犯人グループの目的も判然としない時期のものらしいが、時限爆弾の匿名性は被害企業や体制そのものの匿名性への絶望に基づくという分析は、この事件への言及で最も典型的な「関係のない人を」は当然に「関係のある人」とは誰なのかという問いを惹起するけれども、それは頓挫した虹作戦の対象たる天皇その人ですら究極的には「関係のない人」にすぎないという主体性の徹底的な不在を導く限りにおいて正しいのではないか。2026/07/11
毛竹齋染垂
1
「法学部生須らく本書を読むべし」 此の本の肝は、解説の長尾教授も認めるように、「わかりません」一派を巡る一連の論考であろう。犯罪が意外とわが身にとって親和的である事を蜿蜒と示された読者はこの章でふと立ち止まる。そして自らを既成の事物による解釈に委ねる是非を突きつけられる。「はい」と言えばその人の前には安逸が待っているであろう。「いいえ」と言えば、その人はより苦しく、より人間的な道程を歩むであろう。ではこの問いに「わかりません」と答えたら・・・? それは今の筆者には残念乍ら分からないことである。2012/03/16




