内容説明
名奉行といえば、第一に名前をあげられる大岡越前。だが、彼の前半生は決して人に誇れるものではなかった。元禄の悪風に染まり、水茶屋の女お袖との間に一女までなしたが、一緒にはなれない。やがて、江戸町奉行へ抜擢された時、お袖の復讐が彼を待っていた。――みずから蒔いた種をみずから裁く人間大岡越前の苦悩。戦後の混乱した世相に、深い想いを託して描いた意欲作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たつや
47
昔、夕方、学校から帰ると再放送でやってた大岡越前を思い出しました。吉川さんは硬派なイメージがありましたが、少しだけくだけた書き方をされてるように感じたので読みやすく面白かったです。短編を濃縮したような構成に、贅沢な気分もした。2016/11/26
ちゃいろ子
40
子どもの頃、父と一緒にドラマを見ていた。幼いなりに憧れの目で見ていた記憶が。 小説はあの立派なお奉行様になる前の、青年市十郎の若き日々から描かれている。若さゆえの過ち、愛する人を傷つけ、自堕落な生活を送ることで自分や家族さえも傷つけ、堕ちる所まで堕ち。とある出会いから、また立ち上がってゆく姿を描いている。 そして、その若き日の過ちを、自ら裁くことになり、、、。 若き日の徳川吉宗との出会いも良し。 忠相を何とか守ろうと周囲の人々も切ない。 また、ドラマも見たくなってしまったなぁ。2021/02/15
chantal(シャンタール)
29
記念すべき吉川英治全集、最初の一冊は大岡越前。子供の頃、学校から帰って夕方四時から始まる大岡越前の再放送を見るのが大好きだった。私の中では大岡越前=加藤剛であり、知的で優しさに溢れた男の中の男。そんな越前守も若い頃、こんな放蕩者の不良少年だったとは!でもそこから更生したからこそ、あんな素晴らしいお奉行になったわけだね。ああ、懐かしい大岡越前!あの頃はホントに良かった、面白い時代劇がたくさんあったなあ。2017/12/04
糜竺(びじく)
18
やっぱり吉川英治氏の作品は味わい深い。2022/08/10
フミ
16
吉川英治先生、読むの2作目。人物伝ではなく、元禄~享保年間(1700年代前半)を舞台にした、人情・群像劇といった感じです。前半、160頁ほどまで、罪を犯し、最底辺まで落ちた青年が、奮起して10数年後、名奉行となって、過去の自分の罪と向き合う…。そして、主人公を取り巻く様々な人々の、悩み、苦しみなどが描かれています。 執筆なされたのが「昭和23年」という大変な時期で「昔も、こんな酷い時代(生類憐みの令)があったよ」という、読者層へのメッセージ性が強く感じられました。2023/09/13