内容説明
うわべは優雅な村人であった亡父の形見の6連発拳銃。母の心臓に、雷に打たれたようにある6つの小さい深い穴。さりげない筆致と深く暖かな語りのうちに、生きることへの声援をおくる三浦哲郎の鮮やかな短篇連作の世界。野間文芸賞受賞。
目次
拳銃
シュークリーム
河鹿
おおるり
川べり
石段
小指
土橋
鶯
闇
義妹
水仙
凧
鼠小僧
たけのこ狩り
化粧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みや
9
昭和50年から翌年にかけて「群像」に発表された連作短篇集。あとがきによれば、素材を決めずに書き連ねた作品群とのこと。こんなふうに身の回りの些細な出来事から材を抄出し、芳醇かつ端正な佇まいの小説世界を生み出すことができたら楽しそう。一族の因果な血筋への畏れを踏まえた、硬質だが温かい家族への眼差しが全篇を貫いているのが印象に残る。2022/02/14
harukawani
9
すばらしい……。静かな筆致なのに、1行目からぐっと心を奪われる。淡々と語っているようで、話の道筋はダイナミックにうねる。そのバランスの心地良さ。姉2人は自死、兄2人は失踪。そんな中でも穏やかに暮らして死んでいった父は、六連発の拳銃を遺した。残ったのは、老いた母と姉が1人、そして”私”。連作短編の形を取り、家族のこともゆっくり繙きながら、描かれる生。切り取られた日常の光景にも、”死”がふと顔を覗かせる。それが、わずかに恐ろしく、けど温かな哀しみに胸が満たされていく感覚。明るくはないのに、ずっと浸っていたい。2020/10/13
ステビア
7
著者の本を読むのは初めて。地味で技巧的にも並くらいの短編が続いた。2014/08/25
naotan
5
全体的にもの悲しく暗い話が続くなか、「たけのこ狩り」にくすっと来た。2015/11/17
緑色と風
5
「拳銃」と「河鹿」は、血のつながりを強く感じる短編だ。著者にとって父が残した拳銃は、一家の心の闇の象徴。その拳銃を母から預かったことで、目覚めが早くなってしまう。娘はそんなことは知らないのだが、違う理由で早起きになっている。それは、心配性の性格という父と娘の血のつながりを感じさせる。日本人は、昔から誠実な人種だといわれているが、本当は著者の父が感じていたように誠実にならざるをえないほど周りの視線が厳しく、自分を律することが唯一厳しい視線の中で生きぬくことができる術だったのかもしれない。忘れられない短編だ。2009/12/03