内容説明
数年ごとに大流行して多くの人命を奪う天然痘。それに絶対確実な予防法が異国から伝わったと知った福井藩の町医・笠原良策は、私財をなげうち生命を賭して種痘の苗を福井に持ち込んだ。しかし天然痘の膿を身体に植え込むなどということに庶民は激しい恐怖心をいだき、藩医の妨害もあっていっこうに広まらなかった……。狂人とさげすまれながら天然痘と闘った一町医の感動の生涯。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
467
時は天保8(1837)年。日本全土は天然痘の猛威に猖獗を極めていた。ここ、福井の城下もまた例外ではなかった。本書は、福井の町で天然痘から子どもたちの命を守るために一生をささげた町医者(最初は漢方医、後に蘭医)笠原良策の物語である。文体はこの作家らしく誇張を避け、淡々と事実を積み重ねる形で語られてゆく。種痘を認知させ、領内に遍く浸透させてゆくまでの苦労は凄まじいばかりであった。物語としての山場は京都からの峠越えに置かれてはいるように見えるが、実はむしろその後の無理解との苦衷に満ちた煩悶にこそあっただろう。2021/03/18
いつでも母さん
207
「花がひらき申したぞ、花がひらき申した」この言葉が出るまでの苦労が凄い。諦めない思いは全てを凌駕するのだ。新しいモノを広げる道はいつの世も妨害に曝される。藩の役人、人々の無理解・・72才で亡くなるまで笠原良策の生涯は日本の種痘の為にあったのだなぁ。吉村昭はやっぱり読ませるなぁ。2018/07/31
モルク
136
江戸末期、多くの命を奪う天然痘と闘った福井藩の町医笠原良策。漢方医であった良策が、蘭方医に出会い確実であるという予防種痘を知る。苦労を重ね藩に持ち込んだものの、体に天然痘を植え付けるということに拒絶を示す民衆、漢方医たちの嫉妬、妨害そして役人の怠慢など、無知や偏見から来る様々な難敵に立ち向かう。いつの世も新たなことを広めるのは大変。良策の私財をなげうち、自らの生命をかけての闘いは胸を熱くする。これだから吉村昭はやめられない。時々読みたくなる作家である。2021/02/08
初美マリン
125
天然痘が、幕末まで多くの人々の命を奪っていたとは、思わなかった。種痘を広げる為に生涯を捧げた医師の物語どんな時も無理解と自己防衛によって、妨げるものは存在するということ。悔いのない人生。成し遂げましたね、笠原さん‼2018/11/16
kinkin
122
福井の町医者である笠原良策。彼が無残な姿で亡くなってゆく人を見て命を救うために異国で成功している種痘の医術を知ることになる。険しい山道を1周間かけて京都に棲む医師と相談し中国からの種痘株を手に入れようとするが その跡待ち受ける多くの危難。天然痘は世界で撲滅宣言が出ている現在だが200年前の日本ではあちこてで天然痘が蔓延していたことを知った。現在世界中で猛威をふるっていろコロナウィルスのことを考えながら読み終えた。短い本だが読み応え十分。昔西洋で女性が化粧をするようになったのはあばたを隠すためだったとか 2022/03/02