内容説明
偶然盗み見た夫の日記。見知らぬ女への愛の讃辞が書きつらねてある。そして次に記された一行は妻の心を凍らせた。「それにひきかえ妻はなんと醜いのだろう……。」妻は黄昏どき、鏡の前で唇に紅をぬる。そして夫が帰宅する時――。口紅、香水、靴等女性用品を鍵(キイ)に、愛の陰の恐怖を描出した、円熟の連作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takaC
52
女性用品を鍵(キイ)に愛の陰の恐怖を描出とのことだが女性用品と言うには強引なのもちらほら。ご愛嬌。しかし、10代の頃に定価360円で買った講談社文庫なので紙が変色して古書の体&臭いだった。(この場合は「匂い」とするべきなのか?)2015/02/06
KAZOO
47
これは12の短編集です。女性の小物ー口紅や香水などーを題材にした連作といえるのかもしれません。まあ男女の関連が多いのですがそんなにいやらしいものではないので読んでいて疲れることはなかったです。この作品集の中ではアンソロジーなどによく入っている「夜間飛行」がすきです。2015/05/20
棕櫚木庵
23
解説で,長野から上野までの新幹線車中読書に最適だったようなことが書かれている.私も,ある人からもらって似た状況で読んだ.たしかに,途中で飽きることもなく最後まで読み終わり,後を引かない.「口紅,香水,靴等女性用品を鍵に,愛の蔭の恐怖を描出した」(ジャケット裏内容紹介)12篇なのだけど,「回想」が重要な役割を果たしているようにも感じた.集中,「精霊流し」が哀れ深く,もっとも印象深い.貧しく平凡だけど,それでもつつましい幸福を得た男の回想あるいは病窓の幻影.“しみじみとした悲哀”とでも言えばよいのだろうか.2021/09/11
Taito Alkara
8
落ち着いた雰囲気のある短編集。文学的な表現も多くて、舐めるように読みました。2017/08/11
MIKETOM
7
数多い阿刀田作品の中でも好きなほうの一冊。もう十回ぐらい読み返してるんじゃないかな。女の小道具をテーマにした連作短編集。『夜間飛行』『精霊流し』『筒坂』が特にいいけど『靴の行方』『花の儀式』『マンスフィールドを読む女』もいいね。つまり全部いいってこと(笑)。『精霊流し』の薄幸な男のほんの一時だけ幸せだった日々の思い出が哀しくて心に残る。鮮やかなどんでん返しってタイプの作品集ではなくて、人生の切り口を垣間見せてくれるような作品ばかり集まっている。こういうのも好きだね。文章力が素晴らしい。2017/03/08