内容説明
江戸末期の浦上四番崩れと呼ばれる迫害に材を取った、著者が拓いた独自の切支丹文学の先駆をなす名作「最後の殉教者」はじめ、若き日のフランス留学体験から生まれた「コウリッジ館」「ジュルダン病院」「異郷の友」「男と猿と」「従軍司祭」など珠玉作10編を収録。遠藤文学の軌跡を集約する必読の純文学短編集。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
44
独自の切支丹文学の色彩が見える短編集でした。純文学としても興味深い作品ばかりです。遠藤文学の軌跡を見ることができました。短編だからか、深みの余韻に浸る作品ばかりです。2024/02/27
活字の旅遊人
39
表題作は、『女の一生』『沈黙』の礎的な作品なのですね。小説の作り方、膨らませ方を垣間見ることができる。いや、そんな気がします。後ろの作品群には、『悲しみの歌』のガストンさんのような人物も登場しているし。これらはフランス留学中の話や病気療養の話を中心に据えつつも、やはり西欧に敗北した国における、自身を含めた救われない思いを抱く人間をしっかり描いたものだと思った。その中で「肉親再会」が特に印象深い。主人公の妹に対する複雑で様々な感情が迫ってくる。実際僕に妹はいないのだが。ん、遠藤周作にもいないのでは? 2021/08/04
あーびん
31
浦上四番崩れを題材に、『沈黙』『女の一生・第一部』と共通するテーマの表題作。短編ながら『沈黙』のキチジロー的な人間の弱さや信仰における赦しを描いており、心がえぐられる。また、「コウリッジ館」「異郷の友」「肉親再会」など筆者の渡欧生活で感じた人種差別やカルチャーショックの影響がみられる話も多い。常に信仰の不条理について自分に、神に問うている姿は遠藤周作作品の本質であり魅力でもある。2020/05/14
奏市
8
10篇から成る短篇集。4篇は著者のリヨン留学を基に創作されたであろう内容。どれもフランス社会に溶け込めない異邦人の孤独な様子が暗く寒いリヨンの描写と併せて印象的。暗い内容で楽しくないのになぜかもうちょっと読もうかとページを繰る妙な居心地の良さを感じた。その内『異郷の友』はリヨンでの日本人留学生は2人だけとの設定。初めは仲良くやっているがカトリックを手段としフランス人に取入ろうとする相手に主人公は欺瞞や卑屈さを感じお互いに反発していく。異国の地で同郷の2人がすごく親密でという話よりこっちの方が真実味感じた。2023/07/08
みやざき しんいち(死ぬまでにあと1,000冊は読みたいんだ)
6
【31冊目/50冊目標】欧州への旅行の機内で読了した。遠藤周作は「沈黙」などのキリシタンものしか読んだことはなかった。この本はタイトルこそキリシタンものだが、遠藤のフランス留学時代をモチーフとした作品も含めた短編集だ。留学時代ものの短編集はどれも、1950年代というフランスにとっては、第二次大戦やインドシナの問題を抱えた時期でもあり、そんな時についこないだまで戦争で暴れてたアジアの国から来た留学生の気持ちの描写が鋭い。2015/07/04