内容説明
無口で神経質そうな少年・太郎が、ぼくの画塾へと連れられてきた。太郎の父は画材会社を経営しているが、彼が描くのは電車やチューリップの絵ばかり。人間が1枚も描かれていないスケッチブックに彼の孤独を見たぼくは……。閉ざされた少年の心にそっとわけいり、いきいきとした感情を引き出すまでを緻密に描いた芥川賞受賞作「裸の王様」ほか3編。世間を真摯なまなざしで切り取った、行動する作家・開高健の初期傑作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
嫁宮 悠
2
短篇四篇を収録。濃密で読み応えがある筋肉質な文章は、読書の醍醐味を十分に味わわせてくれる。現代の寓話といった作品たちからは、反骨精神や自由への意志といったものが感じられるが、全体を通して見れば、剥き出しにされた人間の姿、生命の本質的な力強さといったものを写実的に描いている。書きすぎている感はしないでもないが、この本に限って言えば、描かれているのは「人間」であり、魂や心といったものではないので、情緒的な曖昧さよりも、技巧的な精確さが要求されるのだろう。2017/12/01
ヨリ
1
裸の王様の意味はここにあったのかー。そのままアンデルセンなんだけど、でもそうではなくて!文章の流れがとても好きな作品でした。2014/12/14
sasuke
1
この小説の舞台は秦の始皇帝の時代。万里の長城を建設するためにかり出された男が主人公の短編。長城を建設しても守りきれるはずはなく、縦横無尽に走り回る匈奴。かり出された人々にとって万里の長城建設は、なんのためか、どこをめざしているかわからない徒労にすぎない。そこから免れるため、主人公は匈奴のいる砂漠に入っていく。そして「私たちの時代はもう久しく新鮮な上昇力に接していないのだ」ということばが心に響く。一匹狼のように生きていきたい。男の子の夢がここにある。男の子って、たいへんだな。2003/05/18