内容説明
――それは、時代の曲がり角をはっきりと象徴していた。昨夜、寝室でその女を抱いて寝た男は“軍靴”をはいた男だった。〈戦争〉に虐げられた、あの忌わしい記憶がよみがえってきた……。すさまじい日本経済の海外進出は、インドネシアに政情不安を起こした。政治は腐敗堕落し、むき出しの反日感情が昂まった。日本政府は、西イリアンの石油利権を保護する名目で派兵を強行。既成事実がつくり上げられ、刻々、〈戦争の危機〉が近づいていた! どす黒い現代の恐怖感を描いた、著者会心の長編小説。
カバーイラスト/杉本 一文
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
GaGa
44
半村氏の口癖は「俺は文学なんてやってないよ」だったとか。この話は日常生活側から戦争に対しての危機、さらにはテロ行為やクーデターへと発展していく切り口だけを見ると一見ポリティカルフィクションや、その要素を持ったSFのようにも思える。ただ、「雨やどり」以上に文学的な感覚をこの作品から私は感じることが出来た。特にタイトルの意味、そして最後の二行。随分久しぶりの再読だが、当時は若かったせいで半分も良さが理解できないでいた。復刊希望。2012/01/22
アーチャー
11
もし日本が軍国主義に突入したら?というテーマで描かれた連作短編集。そこだけ捉えれば、ここ数年の日本政府を引き合いに出して、あれこれ論じられても仕方ないかと思うが、何故か本書で描かれた軍国主義には"社会主義"や"共産主義"の匂いが感じられた。また「クーデター」に於ける悲惨な顛末は、勝手な暴走の愚かさを感じずにはいられない。いずれにせよ、片寄った思想は危険だし、戦争なんて起きてほしくないんですよね。2016/07/17
ムー
7
なるほどリアルなSFというのか面白いです。初半村良なので興味津々でしたが何となく経済小説に近い好みです。 他も読んでみたい。どれも良かった。2017/12/13
金吾庄左ェ門
5
戦争に反対する本と言うよりは、無責任で利己的な市民を批判した本だと言えます。世界情勢は混沌を極め、日本も軍事的に何もしないわけには行かない中で、着々と進むクーデター計画。反対派の目論見はあっけなく潰される中、「戦争の恐ろしさを知っているのか」と言いながら、自分だけは助かりたいと戦争に反対する人を悪人扱いし当局に突き出す。そんな無責任で利己的な市民こそが最も批判されるべきではないでしょうか?
ジュンケイ
3
約30年ぶりに再読。文庫の初版は昭和49年。この本の内容はまったく古くないことに驚く。戦争が近づく緊張が、少しずつリアルになっていく群像劇。庶民の困った感情(P140)もリアルだし、異常気象も現実になっている。「戦争はないほうがいいって言うのと、軍備を持たないほうがいいというのは違う」「軍備を持ってて戦争しなければいい」(P 249)というセリフ。こういう会話は50年前からあったのか。解説の権田萬治が危惧する「想像の産物である一編の未来小説であり」続けてほしいという祈りは、今のところ杞憂だ。今のところ。2022/08/30




