内容説明
太平洋戦争中、セクシーで魅力的な語りでGIたちを幻惑させた日本軍対敵宣伝放送の女性アナウンサー<東京ローズ>。終戦後、従軍記者たちに、いちどはヒロインにまつりあげられながらも、日系二世であるがゆえにその伝説の魔女・東京ローズに仕立てられ、祖国アメリカから<反逆者>の烙印を押されたアイバ戸栗ダキノ夫人の真実を、徹底した日米両国の関係者取材と膨大な裁判記録の検証で明らかにした執念の労作。講談社出版文化賞(ノンフィクション部門)受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
65
積読消化。第二次大戦中、日本軍の対敵宣伝放送の女性アナウンサー「東京ローズ」とされた日系二世のアイバ・戸栗・ダキノを取材したノンフィクション。彼女は戦後反逆罪で起訴された。宣伝放送に参加していたのは確かだが、アナウンサーはほかに四人いて、彼女と特定し罪に問えるほどの証拠もないが、排日運動はまだ冷めてなかった…… 結局、有罪になり、国籍を失ったままで約三十年が過ぎたが、この本の初版がでた次の年(1977)で大統領特赦が認められたという。いやあ、物語なら陪審員裁判で無罪になるはずだが、現実は、非情だ。良書。2018/05/28
Willie the Wildcat
40
正に”魔女”裁判。確かに当時の人種差別も背景にあるが、政府のプロパガンダと政治家・記者等の売名行為は甚だ不快・不愉快。日系社会も分断し、夫は国外退去・音信不通?!それでもUSに留まる理由はただ1つ、アメリカ人としての自負。執筆当時も無国籍。一貫した信念に唯々敬服。同様にコリンズ弁護士。火中の栗を拾う覚悟。法治国家の最後の砦という印象。それにしても、運命の悪戯も人生なんだろうけど、やはり切ないなぁ。せめて静かな晩年であったことを祈るのみです。2016/07/15
James Hayashi
33
東京ローズというオフィシャルな名前はない。太平洋戦争で連合国向けのプロパガンダ放送として雇われた女性に、米軍兵士間で呼ばれた愛称。彼女の愛国心ゆえに陥った罠。冤罪である。誰でもよかったのであろう。誰かを吊るし上げなければアメリカ国民感情が収まらなかったゆえ。証拠などなくあやふやな証言だけ。その証言も後で偽証であることが判明。長期間拘束という陪審制の問題も見える(長期間であり日本から多数の証人招致し多額の費用)。まさしく現代の魔女狩り。東京裁判も東京ローズ裁判も茶番である。2018/11/21
駄目男
2
国家反逆罪の被告として告訴された人物は日系アメリカ人のアイバ・戸栗ダキノという1916年生まれの女性。終戦後、いち早く来日したアメリカ人新聞記者の注目は逮捕前の東條へのインタビューと東京ローズと言われる謎の女性を探すことにあったとか。GIたちがゼロ・アワーと呼んでいる夕飯時に流れてくる魅惑的な女性アナとは誰なのか。そもそもアメリカ生まれの日系二世たるアイバは何故、日本に渡ったのか。まさか単なる日系二世のいち女性である自分が、このような大罪で裁かれるとは思いもよらなかったろうに。運命の翻弄とは恐ろしい。 2016/09/05
早海徒雪
0
第二次大戦中、アメリカ向け厭戦放送の名物女性アナウンサー「東京ローズ」の実像と、戦後彼女の正体と目され、反逆罪として逮捕(のちに市民権まで剥奪)されてしまったアイバ・戸栗・ダキノという女性の運命を、その裁判を中心に描いたノンフィクション。膨大な資料とインタビューをベースに、あくまで客観的に(常に多面的に)事実を追いかけて行って、戦争の愚かさ、国や人間の奥に潜む光と闇を浮かび上がらせていく。いついかなる時でも、どんな場所でも、どんな人間にでも起こりうる悲劇。良作。2012/09/19