内容説明
昭和初年、飢饉と恐慌のふき荒れた時代に、吉原で若い生命をすり減らしていった遊女・さよ。貧困から品物のように売買され、閉ざされた世界から一歩も外へは出られず、一年中一日の休みもなく客をとらされた遊女さよ。傷つきやすい魂と肉体を備えた一人の少女の屈辱と絶望の半生をヒューマンなタッチで描く長編野心作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
48
電子書籍にて。手軽でいいが、終わりまでの過程を手で感じられないのがもどかしい。物語の終焉が突如やってきて、愕然としてしまった。未完なのかと勘違いしたほどだ。だから紙書籍の方が私は好きだなあ。吉原に売られたさよというひとりの女性。時代は昭和初期。さよも貧困ゆえ、苦界に身を置かざるを得なくなった運命を背負ったそのひとり。どの環境にいても、生き方は自ら決めるものだのだと改めて考えさせてくれる名著。石田に身請けされるも幸福でなく、火事をきっかけに自ら再び玉の井へ身を売ったあたりから、さよはひと際強く美しくなった。2016/06/11
キムチ
14
ただただ、事実を突き詰めた小説という重みに・・心が潰れ、暗澹とした寂寥感が。暗く、黒い海に漂う命を想い、涙してしまった。余りにも哀しい類似の状況が幾千とあったであろうことを考え併せ・・
ギルヲ
3
満州事変勃発から三年後の昭和九年、さよは数え十八歳で、失踪した母、ごくつぶしの父、貧しさに喘ぐ弟妹たちのため吉原に売られる。物語自体はほんの三年ほどの出来事なのだけれど、本当に重くて暗い。救いの無い話なのに読む手が止まらないのは、苛酷な運命のなか懸命に生きるさよを知らず応援しているからと、細かい取材で戦前の遊郭の実際を克明に描いているからかと。とても哀しい物語ですが、読めて良かった。2024/12/01
yuki
2
すっと気になっている作家でした。端正な文章に一気に読んでしまいました。豊富な取材の成果なのでしょう、女性の強さや弱さを時代の暗雲が漂う中で静かに描かれています。いい作家を知ることができました。2018/09/19
おなす
1
昭和初年、貧困から品物のように吉原へ売られていった遊女さよ2024/10/03