感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
91
1920年代ポーランド・ウクライナ・ソ連への紀行文。ロシア革命後の世界を期待して旅した、人気のジャーナリストが見た現実は、幻滅でしかなかった。ヴォルガ川がカスピ海に注ぐ川沿いのアストラハンの漁師、カフカス・バクーでの商売人、ポーランド・ブロディで溢れる戦争障害者、タタール・カザンの農民。「人は誰もが社会の動的な要素」と捉えて書いたジャーナリストとしての目線を通して当時の市井の人々の様子を知る。当時の空気は、日記か新聞に載る記事や紀行文でしか知り得ない。その後1932年に小説「ラデツキー行進曲」を著す。2021/09/23
どんぐり
82
放浪のユダ人作家が書いたウクライナ・ロシア紀行。初出は、「Frankfurter Zeitung」紙の1920年代に寄稿したウクライナの「ガリツィアの旅」と「ロシア紀行」。ソビエト連邦時代のリヴィウ、レニングラード(現サンクトペテルブルク)、ニジニ・ノヴゴロドからアストラハンまで運航するヴォルガ汽船の旅。時代を感じさせる原著からの訳と小さな活字が読み手の読解を阻む文章。→2023/02/17
Y2K☮
36
著者は現ウクライナ西部のリヴィウ州ブロディ出身。1920年代のソ連やポーランドの様子を描く。当時は著者みたいな各国のインテリが共産主義に理想郷の可能性を見出していた。だが庶民の日常を目の当たりにし、幻想は徐々に打ち砕かれる。価値観が無機質で虚無的、個が存在せず同じ思想の集団だけがあり、メディアからの批判も含めて全て政府の掌の上。国が宗教の代わりを務めている。現状のプロパガンダを見る限り、マスコミ報道に関してはこの頃の傾向が続いていると感じた。管理国家を望む連中は自由を悉く奪われるまで気づかないものなのか。2022/04/01
Nobuko Hashimoto
19
『ラデツキー行進曲』が面白かったロートによる見聞記。1920~28年頃に新聞に連載していたものを抜粋したもの。ソ連の最初期の雰囲気が伝わる。新しい国ソ連の可能性に期待し、評価しているような文章もあれば、早くも蔓延する検閲と表現の自由の制限に失望している文章もあって興味はつきない。が、文章によってはなかなか難しい。この時期の様子を知るのに学生と読もうかと思ったが、この本だけでは厳しいかな。それはともかく、ロートはユダヤ人でツヴァイクとも友人だったとのこと。ほかもまた読もうっと。2024/02/14
hasegawa noboru
15
東ガリツィア(現在のウクライナ南西部)生まれで、1939年亡命先のパリで客死した流浪のユダヤ人作家ヨーゼフ・ロート。今からほぼ100年前、革命後わずか9年のソビエト・ロシアを旅してドイツの新聞に書き送った紀行文集。120頁ほどの薄い本なのに、後半読むに意外と難儀した。プロレタリア独裁国家の問題点行く末を正確に見抜いていたことはその後のソ連崩壊の歴史が証明した。●東ガリツィアのリヴィウ(当時はできたばかりのポーランド共和国領)で行われた、戦争負傷者(演壇でピストル自殺を遂げた)ポーランド人の葬列レポートは2022/11/10