出版社内容情報
今なお世界中に多くのファンをもつ、ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキー。 2016年、没後30年を迎える監督が生涯で制作した長編映画はわずか7本。しかし、次作への構想は「ホフマニアーナ」「ファウスト博士」「ハムレット」「白痴」など、いくつも温められていた。 「ホフマニアーナ」はタルコフスキー、幻の8作目である。
「ホフマンはまるで自らの幻想の中で救済されているかのようだ」(『タルコフスキー日記』) 現実と幻想が入りまじる作品の数々によって、後のポーやドストエフスキー等に影響を与えたといわれる幻想作家・作曲家のホフマンを主人公にした「ホフマニアーナ」。 このシナリオの映画化はドイツからのオファーを受け、1986年1月から撮影が予定されていたが、85年末、タルコフスキーに肺癌がみつかり、監督の死によって幻の作品となった。
大きなシーンごとに書き分けられた本書はシナリオであり、幻想小説でもある。鏡、火事、気球、蝋燭の炎……タルコフスキー映画ファンにはなじみの要素が散りばめられ、読者による映像化が待たれている。 翻訳は『アルセーニイ・タルコフスキー詩集 白い、白い日』を手がけた前田和泉。タルコフスキーとホフマン、時代も作品世界も異なる二人の芸術家に響きあう源を探り明かしていく解題も読み応えがある。 挿画は繊細な指と大胆な構成力で定評のある銅板画家の山下陽子。もうひとつの夢幻世界を堪能できる。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
keroppi
52
アンドレイ・タルコフスキーが8作目に撮るはずだった作品。鏡や炎など、タルコフスキーらしいモチーフが散りばめられ、幻想的な世界が展開する。あー観たかったなぁ。タルコフスキーの映像、大好きなんだけど。2019/03/16
藤月はな(灯れ松明の火)
32
情けないことにタルコフスキー監督の映画は一作も見ていないですが、近所の図書館に所蔵されていたので読むことに。幻想・怪奇小説家のホフマンを巡る物語。鏡と蝋燭という「光」を象徴するモチーフが塔の秘密めいた闇を一掃に際立てている。そしてドッペルゲンガーやウィンデーネなどの他の幻想古典小説での「彼岸のモノ」や過去の歴史がひっそりと出でる様は完璧に幻想小説の手法を映像内に取り入れるつもりだったのだろう。この作品はソ連の許可が降りずに映像化はされなかったのだが、白黒映画で観てみたかったな・・・。2016/07/05
いやしの本棚
8
好きすぎて読みすすまないほどだったが、読み終わってしまった。鏡、蠟燭、古い城、燃え落ちる塔…とにかく好きな要素しかない。ホフマンといえば「くるみ割り~」しか読んだことがなく、他の作品(「世襲領」とか!)もぜひ読まねばという気になった。あとこの本の大事な見所は、鏤められる幻想的な場面を彩る、山下陽子さんの10点の挿画。読者の想像を邪魔せず、むしろ幻視を促してくれる、素晴らしい作品。2015/10/12
belle
5
~現実と夢想の不可思議で色鮮やかなコントラスト~(訳者解題より)が大きな魅力の作家ホフマン。映像化はならなかったが、タルコフスキーが描いたホフマンの物語。ドイツロマン派の奇才に相応しく、自身の作品以上に悪夢のような幻想世界に陥っている。訳文もよく、挿画がまた想像を呼ぶ。最近、驚異のパペット・アニメ「ホフマニアダ」とオッフェンバックのオペラの映画版「ホフマン物語」を見た。そして本書。エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンへの3つのオマージュ。2019/04/24
保山ひャン
3
タルコフスキーが次に撮るはずだった映画「ホフマニアーナ」のシナリオ/小説。ソ連の国家映画委員会ゴスキノから撮影許可がおりなかったのだ。主人公はホフマン。鏡の中にドンナ・アンナを見たり、デビュー作の騎士グルックに会ったり、ホフマンの分身と対話したり、占星術の塔にしのび入ったり、ウンディーネを成功させた劇場が火災にあったり、ナポレオン戦争で死体の山を歩いたり、脊椎カリエスで苦しんだり。恋心を抱いて破れたユリア・マルクとの物語を軸に、鏡の多彩な使われ方が印象的。それはまさにタルコフスキーの世界そのものだった。2016/07/06