内容説明
アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「鏡」「ストーカー」「ノスタルジア」で朗読される父、アルセーニイの詩。「鏡」のシナリオ・タイトルであった「白い日」から「遺言アンドレイ・タルコフスキーに」まで25篇を収録。
目次
白い日
(子供の頃、病気になった)
(ふいに燃え上がった魂を)
(暗闇よ腐敗よ)
写真
一九三九年六月二十五日
(僕が生まれたのはずっと前のこと)
夜の雨
初めの頃の逢瀬
(暗い日に僕は夢見るだろう)〔ほか〕
著者等紹介
タルコフスキー,アルセーニイ・アレクサンドロヴィチ[タルコフスキー,アルセーニイアレクサンドロヴィチ][Тарковский,Арсений]
1907年、エリサヴェトグラード(現ウクライナ)に生まれる。新聞社やラジオ局での勤務を経た後、三〇年代からは主として翻訳で生計を立てる。第二次大戦中の41年、志願して従軍し、43年に前線での負傷がもとで左脚を切断。62年、初めての詩集『雪が降る前に』を出版して遅咲きの詩人デビューを果たすと、以後、堰をきったように多数の詩集を発表。89年、モスクワ郊外の病院で死去。最初の妻マリヤとの間の生まれた長男は、後に映画監督として世界的に知られるようになるアンドレイ・タルコフスキーである(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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マリカ
24
この詩集にはとても驚いた。開くとまず明るい光の中に、穏やかな風を感じた。その風が大地の草木を揺らしていた。鳥たちが木々の合間に巣を営み、小さな虫たちが草むらの中に息づく。夜になれば星や月が草原に暮らすものたちに生きる喜びをささやきかける。どの詩も澄んで明るく、この詩人が生きたスターリン時代の暗いソビエトを全く感じさせない。タルコフスキーの詩の中では、人だけでなく植物や動物、そして星や月までもが生命感にあふれ、彼らもまた生を渇望する詩人であるかのようだ。2012/06/14
おだまん
14
タルコフスキーの名前と鈴木理策の写真に惹かれ。アンドレイのお父さまなのですね。 こうも自然に心にしみじみと響いてくる、訳が本当にありがたい。アンドレイの映画もまだまだ観たいのいっぱいあるけどとりあえずノスタルジアを観かえしてこの詩と呼応しているなぁと感じた。詩と映画を通じた父子の対話。2025/02/18
nina
13
『惑星ソラリス』や『ノスタルジア』などの傑作映画を遺したロシアの巨匠アンドレイ・タルコフスキーの父、アルセーニイの詩に写真家鈴木理策さんの写真を配したとても美しい詩集。「雨がまっすぐに草の中へ落ちると 燕が下から舞い上がった、それは最初の一日、花弁の露が砕けながらきらめくように 夢でなくたしかに、奇跡によって 輝いていた日々の。」自然界から拾いあげた白く輝くようなモチーフ、とくに度々登場する雨や小川などの水気を含んだ言葉の数々が息子アンドレイの映像美と脳の中で直結し、不思議なノスタルジーの残像を見せる。2013/10/03
MO
7
エウリュディケ 人間の体は ただ一つしかない、まるで身寄りのないもののように。魂はもう倦んでいる、五コペイカ銅貨の大きさの 目と耳、骨に被せられた 傷だらけの皮膚、そのようなもので自分を覆い隠す殻に。 魂は飛ぶ、角膜をすり抜けて 空の井戸へと、氷の尖塔へと、島の軍馬へと、そして己が生ける牢獄の格子越しに聞くのだ、森と畑の鳴る音を、七つの海のラッパを。 体のない魂は罪深い、シャツを着ない体のように 考えも、行いも、企ても、詩もないのだから。それは謎解きのない謎。誰が戻って来るというのだろう、2022/01/25
えぬ井
7
アルセー二イ・タルコフスキーの詩と鈴木理策の写真。奇跡のコラボレーション。手段は違えど光を描いた静かな作品集。2013/09/29