内容説明
「先住民年」のいま、資本主義の植民活動が被植民地にひきおこしている「現実」は如何なるものか分析する本書が、前資本主義経済から資本主義経済への過渡的状況にたいする新限界学派や構造主義的マルクス主義の、具体的歴史的状況に盲目な客観主義の立場からの抽象を、強く批判。〈ディスタンクシオン〉概念を生んだ、ブルデューの出発点の碑。
目次
序論 構造とハビトゥス
第1章 単純再生産と周期的時間
第2章 矛盾する必然性と両義的行動
第3章 主観的願望と客観的チャンス
第4章 経済的性向の変化のための経済的条件
結録 意識と無意識
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
7
人類学者は文化接触を語る際に経済の動きを疎かにし、経済学は経済指標で世界を語る際に文化接触を軽視する。この矛盾に直面する著者は、1960年代植民地時代のアルジェリア調査で、植民地化によって貨幣経済を強いられた前資本主義社会のハビトゥスの変容を検討した。貨幣の導入で賃金労働となった生活は定量化される人々は近代的アパートに移ることで生活支出は一定となり、個々の収入の程度で文化を作る余裕ができるか困窮するかの階級差が発生する。本書は、未来の計算というハビトゥスの強制が、文化を定量的な排除の構造に変える様を追う。2024/05/14
ぷほは
2
原題は『アルジェリア60』で、サルトルを中心とするフランス知識人の発言のアンガジュマンではなく、現地に赴きながら人々の声に耳を傾けてきた著者の考察がエッセンスとして抽出されている、ブルデュー最初期の論考。経済学批判から始まるのはいつもの通りで、最後に出てくるアパルトマンをめぐる住宅問題は後の『住宅市場の社会経済学』へと発展していく萌芽のよう。他方「文化資本」という用語はここでは巻末のインタビューにのみ登場する。名前は出てきていなかったがボードリヤールの消費社会論と距離を取ろうとしているのが何となく分かる。2019/01/04
a.k.a.Jay-V
2
自身が知識人の議論ではなく現場での調査による経験と言うだけあってアンガジュマン型の視座。政治、イデオロギーとは切っても切れない社会の中で自らの存在の役割、レーゾンデートルを書きながら確認しているかの様。舞台はアルジェリアだが、そこに暮らしているのは人間であって共通する問題はあるとは思う。2016/05/01
山田
1
時間の観念と資本主義適応の性向を結びつけるのはなるほどといった感があるんだが、それよりインフォーマントの言葉の挿入が上手いなと思いました。2015/07/05
まつゆう
0
ブルデュー初期の著作。厳密な理論や統計的根拠は省いて載せていないようだが、書かれている内容は貧困の時間論、習慣論ともいうべき素晴らしい考察。資本主義と前資本主義、それぞれのハビトゥスの噛み合わなさに翻弄されつつ、馴染もうとしつつ。アルジェリア農民の呻きが聞こえる。2014/11/12