内容説明
「廿一世紀日本語と書記言語の行方」なる壮大なテーマを背景に、近代小説言語の「ことはじめ」を問う野口文学論のエッセンス。幾多の作家たちがさまざまな「声」に耳を傾けたひたむきな姿を、二葉亭四迷・樋口一葉・岩野泡鳴・岡本かの子の四人の場合のうちに眺め取ろうとするトライ・ケースである。
目次
1 言葉と声音―小説言語ことはじめ(初めに聴覚ありき;『たけくらべ』のナレーション―樋口一葉;讃美歌とざれ歌―岩野泡鳴の小説技法;わが名を呼ぶ声―岡本かの子)
2 物語となること(『源氏』はいかにして物語となりしか―石山と横川と宇治)
著者等紹介
野口武彦[ノグチタケヒコ]
昭和12年(1937)東京生。同31‐37年(1956‐62)早稲田大学第一文学部で政治・政党活動に専念。同37‐42年(1963‐67)東京大学文学部・人文科学系大学院で学業に専念。同43年(1968)から神戸大学文学部講師・助教授・教授、2002年定年退官、名誉教授。ハーバード大学客員研究員プリストン大学・ブリティッシュコロンビア大学客員教授を務める。1973年、『谷崎潤一郎論』で亀井勝一郎賞、1980年、『江戸の歴史家』でサントリー学芸賞、1986年、『「源氏物語」を江戸から読む』で芸術選奨文部大臣賞、1992年、『江戸の兵学思想』で和辻哲郎文化賞、2003年、『幕末気分』で読売文学賞受賞など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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gorgeanalogue
10
今年の6月に亡くなっているから遺著になるのだろう。構音障害になって文章に潜む「声」の契機に改めて気づく、というのが主調となって亭四迷、一葉、泡鳴、かの子を論じる。ごたごたした文章で、論理的な説得力はないが、それも「俗語平談のさまざまな発現を平等な音素材にして取り込」(たけくらべ論)という近代小説の文体実験を著者が改めて試行する、という試みであったとも思える、というのは過褒か。おそらく言文一致は当時「ごたごたした」変なものであったのだろう。源氏論は行きつく所を知れない、まるで浮舟その人のような変てこなもの。2024/09/29