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内容説明
町を見下ろす丘の上に佇む慈悲の聖母会修道院―その附属病棟の一室に十四人の少女たちがベッドを並べている。丘の下の俗世を逃れたアルカディアのような世界で四季は夢見るように移り変わり、少女たちの静謐な日々が流れていく。しかし、病に蝕まれ心に傷を負った少女たちの胸の内を去来するのは、生きることの脅威に満ちた丘の下の世界の思い出だった…。
著者等紹介
ツァンカル,イヴァン[ツァンカル,イヴァン][Cankar,Ivan]
1876~1918。スロヴェニアの国民的作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きゅー
9
貧困や虐待のため、家庭で療養することのできない病気の少女たちが暮らしている慈悲の聖母病棟。「見捨てられ、罰を負わされた、小さなみじめな体」を持った少女たちを通じてイヴァンは「生」とは何かを問いている。しかし病棟で平穏の中で暮らすこと、危険な外界へ飛び出していくことのいずれかを主張することはない。ただ少女たちの「生」と、芽生えゆく「性」へのおののきを見守るだけだ。神に祝福された天国としての修道会病棟と、神に呪われた地獄としての家庭。いずれかを選ばざるをえない弱いものへの眼差しの優しさを感じる一作。2013/05/13
鷹図
9
町を見下ろす丘に立つ、修道院付属の医療施設。その病棟の一室で、療養生活を送る少女たちがいた…。『マグダレンの祈り』を予想して読んだが、やはり沈鬱な「サナトリウムもの」だった。少女たちは身体だけでなく、精神面にも深刻な傷を負っていて、病棟にしか居場所がない。しかし想いを馳せるのは、その安穏な病棟の壁の向こう、丘の下の町のこと。少女のひとりは病棟を、「神に見捨てられた呪われた墓場」と呼び、ベッドを棺に見立て、同室の皆を死体と見做す…。百年前の作品だが、今でも読むに耐える静謐さ。お薦めというわけではないけれど。2012/04/12
micamidica
5
スロヴェニア人作家によって20世紀初頭に書かれた物語。病や障害を抱えた、自宅には様々な事情でいることのできず、慈善施設で暮らす少女たちが描かれています。生きることを諦めなければならない少女、過酷な環境で育ち、それでも生きることを諦めない少女、あるいは諦めてしまったように見える少女… 思春期の少女らしい性への目覚めも描かれます。同時に、強制的に目覚めさせられてしまったエピソードもたくさんあり… 唯一の救いが死であるかのような、救いのない物語で、現代にも通じる普遍さがあります。2019/05/28
いふに
2
家庭に居場所がなく、入院生活を送る女の子達。何故か現代的な印象だった。女の子達はだいたい「かわいそう」な存在だと思うんだけど、彼女たちも結構残酷な部分もあるところが好き。2016/03/19
Takasee
1
読後、これが1904年の作品であることをすっかり忘れていた。それほどまでに、扱う主題は今日にも通ずるものがある。 修道院に付属する閉鎖的な病棟を舞台に少女たちが「いのち」と向き合う。病棟は外界との対比で見れば悪いものではない。しかしだからこそ、そこで暮らす上での葛藤も生ずる。少女たちが二羽の小鳥を自身と重ねるのと同様に読者もまた自分に重ねるかもしれない。しかし、我々はあくまで外界の欺瞞や虚飾でしかなく、死と隣り合わせの彼女たちとは異なる。「生」について考えさせられる良い作品だった。解説もわかりやすい。2019/01/10