内容説明
日系イギリス人作家カズオ・イシグロ(1954‐)の全長編8作を読み解く。『幽かなる丘の眺め』(1983)から『クララとお日さま』(2021)に至る長編小説を、曲亭馬琴の“省筆”、「フロイト/デリダ」の“喪の作業”をキー概念に解き明かす。戦争と強制収容所の世紀であった「長い20世紀」を埋葬しようとするイシグロの小説世界の魅力を存分に語る。
目次
序 沈黙の語り
第1章 『幽かなる丘の眺め』『浮世の画家』―省筆と偸聞
第2章 『日の名残り』―可笑しな執事のクウェスト・ロマンス
第3章 『癒やされざる者たち』―ネクロポリスに充満する空虚な饒舌
第4章 『わたしたちが孤児だったころ』―失われた楽園への旅
第5章 『わたしを離さないで』―別な歴史、別な人間
第6章 『埋葬された巨人』―逆クウェストは終着の浜辺へ
第7章 『クララとお日さま』―語られずも、そこにあるディストピア
終章 喪の作業
著者等紹介
原英一[ハラエイイチ]
1948年生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了、同博士課程中退。主な職歴:東北大学教養部助教授、東北学院大学文学部教授、東北大学大学院文学研究科教授、東京女子大学現代教養学部教授。現在、東北大学名誉教授。専門はイギリス小説およびイギリス演劇(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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タイコウチ
8
カズオ・イシグロの全ての長編8冊を、「沈黙の語り」(小説の中であえて語られないことによって語られているものがある)という視点から順番に読み解いてゆき、イシグロ文学に通底する隠された「真相」を明らかにしようという試み。ほとんどが元は論文として書かれたものらしいが、読みやすく書かれており、いわゆる文学批評の素人(私)でもイシグロ・ファンであればそれなりに楽しめる内容で、簡単なあらすじの紹介もあるので、イシグロ作品への入門書としてもおすすめ。個人的に再読したいのは、やはり「日の名残り」と「わたしを離さないで」。2024/05/31