内容説明
心の傷もわかりあえなさも、すべてを詩にしたとき、母を愛せるようになった―この世の片隅の声に耳を澄ませる詩人が、父、母、少女時代の傷、シンボルスカの詩との出会い、そして回復までを語る。奥歯を噛みしめて耐えること。奥歯を噛みしめて愛すること。何もできなかったあの頃。それは、詩がうまれゆく時間であった。震える心をそっと包み込む、かぎりなくあたたかな30篇のエッセイ。
目次
1 母を終えた母
2(口があるということ;慶州市千軍洞の敵産家屋 ほか)
3 儚い喜び
4(「途方もなさ」について;じたばたのつぎのステップ ほか)
5 二箱の手紙
著者等紹介
キムソヨン[キムソヨン]
詩人。エッセイ集に『詩人キム・ソヨン 一文字の辞典』(姜信子監訳、一文字辞典翻訳委員会訳、クオン、第八回日本翻訳大賞)ほか。露雀洪思容文学賞、現代文学賞、李陸史詩文学賞、現代詩作品賞などを受賞
姜信子[キョウノブコ]
作家。横浜生まれ。著書に『声 千年先に届くほどに』(鉄犬ヘテロトピア文学賞)ほか多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイティ
25
詩人キム・ソヨン氏が、詩が生まれゆく瞬間、両親への複雑な思い、傷と再生について綴ったエッセイ。決して難解ではないが、どことなく詩的な文章とリズムで、少しぼやけた風景のようにノスタルジックで切ない雰囲気が漂う。最初はすんなり入ってこなかったが、進めるうちにこの文章の中にいることが心地よくなる。先日読んだ柴崎さんの最新作にも登場した、ポーランドの詩人シンボルスカについての話がとてもよかった。翻訳が『一文字の辞典』でもおなじみの翻訳委員会(スーパー8)の皆さんということもあり、さらにこの作品が尊く思えました。2024/02/12
チェアー
5
どこから読んでも入り込める。いや、入り込めないのだけど、二度、三度と読んでいるうちに像を結んでゆくような文章。詩ではないが散文ではない。詩の卵のような心の原型のような言葉たち。その言葉が詩に結実していくのかと想像する。2024/03/21
けろ
3
翻訳がうまいのだろう。清流のようである。嫌いであった母親を見送り、母のこと父のことを綴る。耐える・奥歯を噛みしめる。。。感情を爆発させるという特徴のある民族であると偏見をもっていたことに気づく。どこから開いても読み進められるエッセイ集。2024/09/22
ざじ
3
普段の歩幅で読んでいるとすぐに読みこぼしそうになり、何度も数行前に立ち返って読み直しながら進んだ 亀の歩みで何度でも初読の感覚で再読できそうなエッセイ2024/05/06
寄り道
2
韓国の詩人によるエッセイ。静かな気持ちで自分を振り返ることができた。家族や友人知人など誰かのことに耐えようとする時、奥歯を噛みしめることがあるかもしれない。だが、耐えるということは相手を気遣っているということではないか。それはある意味愛情表現ではないか。詩人はそう考える。そして詩作がそこから始まる。 この本でポーランドの詩人、シンボルスカを知った。無関心に通り過ぎる日常に目を向けた詩人。世の中を見つめる詩人の高潔さ。彼女の詩は何度でも繰り返し読みたいと思わせるものだった。 2024/09/02