内容説明
小説家になると決意した自堕落な男。彼はこの先の人生がはたしてどう流転するのかを予見できたのか。青年の抱えるモラトリアム時間がやがて崩壊していく瞬間を描き、第三回日本文学館出版大賞ノベル部門で大賞を受賞した問題作。いま文芸界で最も注目を集める才能の一人である佐川恭一の、幼のデビュー作を待望の文庫化。
著者等紹介
佐川恭一[サガワキョウイチ]
滋賀県出身、京都大学文学部卒。2012年『終わりなき不在』でデビュー。2019年『踊る阿呆』で第2回阿波しらさぎ文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Porco
12
読んでてかなり共感や理解できてしまってとても吐きたくなる。天才と思っていた男が身の程を知り人になる作品…だったらどれだけよかったことか。優しさと残酷さが同居している人間らしい内面描写で描かれる1人の人生の崩壊する過程が凄まじく、自分も宮田章吾であり吉川雅樹でもあると漠然と自分の境遇を思いながら読んでいたため作中作『仕舞』はもう読んでいられなかったグロテスクすぎる。最初は褒められた人ではないと思ったけど真っ当な人物が元カノしかいないし一番優しかったのも一番現実で”人”を見て慮っていたのも彼女だったよ。2023/07/20
いがらし
12
圧倒的なセンスで、文字を巧みに操っている。小説家を目指す男とその周辺の物語で構成されているが、第3章は男の執筆した作中作小説になっている。自意識の高い文章は、出鱈目な駄文に見えるが、見事に主人公たちの性格を表現していて、この小説の文体はこの荒削りな感じしか考えられないと思った。登場人物たちとは友達になりたくないけど、どこか共感できてしまう要素が多くて、結末はそういう運命だと思ってしまうほど現実的だった。自分の知る自分と、他人が見る自分には大きな差がある。それを最もうまく表現できるのはやはり小説なのだろう。2023/04/20
まるよし
10
作りは面白い。ただ、作中作が最後に急展開して疑問を残して終了。作中作、結構途中まで気に入っていたのに。自己評価と他人からの評価っていつも違うよね。無駄に自己評価が高い人、低い人。どちらのほうが生きやすいのか、目標を達成しやすいのか、それはわからない。さわかやな読了感を求める人には不向きです。2023/05/13
岩間 宗達
7
読了。文学ユーチューバーつかつさんの推薦本。正直、以前つかつさんに推薦いただいた筒井康隆さんの本が自分には合わなかったので今回もそんな感じかなーと思ってページをめくりましたが大違い!面白かったです! 自分と重ね合わせて考えさせるような人物や、クスッと笑える表現もいい感じです!佐川さんの他の著作も読んでみたいです。2023/08/24
かす実
6
はじめ2章は傲慢で自己完結型の人間の一人称視点が続き、自己批判と自己分析を繰り返す見苦しいほどに痛々しい作中作を長々と読まされ、なかなか耐え難いところで、終わりの2章でやりたかったことの全貌がやっとわかり、傑作になった。要は(作中)作品の外側で他者の視点を借りて自己批判を繰り返すような作品なのだが、そこで一段越えている。高貴な死よりも意地汚い生を選ぶ、傷つきながら多少傲慢に強く生きると決めた人間を肯定するような小説。2024/11/14
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