内容説明
日常にひそむ不安や欲望、家族の中で抱く孤立感。生きあぐね、もがく女たち。現代女性文学の原点となった呉貞姫の作品集。朝鮮戦争を体験した著者の幼少期が反映された「幼年の庭」「中国人街」のほか、三十代の内面の記録だという六編を収録。繊細で詩的な文章は、父の不在、家族関係のゆがみ、子どもや夫への愛情のゆらぎに波立つ心を描き出す。それは時代の中で懸命に生きる人の肖像でもある。
著者等紹介
呉貞姫[オジョンヒ]
1947年、朝鮮解放後に北朝鮮からソウルに逃れてきた「失郷民」の両親のもとに生まれる。ソラボル芸術大学文芸創作科卒業。大学在学中の1968年、中央日報新春文芸に「玩具店の女」が当選して作家デビューした。1979年に「夜のゲーム」で李箱文学賞、1982年に「銅鏡」で東仁文学賞など国内の主要な文学賞を多数受賞。2003年には長編小説『鳥』でドイツのリベラトゥール賞を受賞し、韓国人として初めての海外文学賞受賞であったことから大きな関心を集めた
清水知佐子[シミズチサコ]
和歌山生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業。読売新聞記者などを経て翻訳に携わる。シン・ソンミ『真夜中のちいさなようせい』で第69回産経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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石
2
生々しくて即物的な物語と、繊細で美しい文章のギャップが独特の雰囲気を醸している 淡々としているので分かりづらいが、全体を覆う不安と孤独は心胆を寒からしめるほどの逼迫さがあり、なかなか類を見ない作風の韓国文学の傑作短編集2024/04/04
takenoko
0
「朝鮮戦争の時に幼少時代を過ごした避難先での記憶をかき集めたもの」 美しい心地よい話ばかりではない。その時代に生きなければならなかった人たちの記憶。 ふと地元で過ごした夏休みとかが思い出された。 些細だけど楽しかったこととか、見慣れているけど美しい景色の記憶。 あとの人生を分つ決定的なできごとがあったわけではない。でもあの時間があって今があるということは事実で、何らか今につながっているんだな、と夏休み前のこのタイミングで思ったりした。2024/07/15