内容説明
生きていくには食べ飽きないパンとほんの少しだけ灯りがあればいい。
著者等紹介
キムヨンス[キムヨンス]
金衍洙。1970年、慶尚北道生まれ。成均館大学英文科卒。1993年、「作家世界」で詩人としてデビュー。翌年に長編小説「仮面を指差して歩く」を発表し高く評価されて以来、本格的に創作活動を始める。「散歩する者たちの五つの楽しみ」で李箱文学賞を受賞したほか、東西文学賞、東仁文学賞、大山文学賞、黄順元文学賞など数々の文学賞を受賞。エッセイスト、翻訳者としても活動している
崔真碩[チェジンソク]
1973年ソウル生まれ、東京育ち。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学術博士。現在、広島大学大学院人間社会科学研究科准教授。テント芝居「野戦之月」の役者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
104
とても短い短編だがしみじみと良い。訳者は著者の作品を一七年振りに翻訳し直した。幼い頃から大人になるまで当たり前にあったが、今はもうないニューヨーク製菓店の灯りが、著者の心を豊かにしている。ただ見えるものだけが全部ではない。思い出の中の灯りにはいつでも戻ることができる。24時間営業のクッパ店に入り、ありありと昔あった店の様子を思い出す。「世の中を生きてゆくのに、それほど多くの灯りが必要なわけではない。ほんの少しだけあればいい。どうせ人生とはそういうものではないか。」ラストの文章がとても良い。2023/09/22
かもめ通信
17
「ニューヨーク製菓店の末っ子」として生まれ育った作家が語るのは、幼い日の思い出、故郷のこと、そしてパン屋を切り盛りしていた母のこと。その場所に立ち戻っても既に店はなく、あの頃に戻りたくても戻ることはできない。それでも思い出が、作家の心に小さな灯りをともすとき、読者もまた、自分の原点に思いを馳せて、小さな灯火で暖をとる。ここではないどこかに、無性に帰りたくなる1冊だ。2022/08/01
匙
16
率直な人生哲学がそっと織り込まれた自伝的短編。温かみがあってとても良かった。著者の思い出の風景の描写の狭間から韓国の社会の移り変わりも感じさせてくれる。小さな製菓店の話をすることで、過ぎ去った人々のことを語らずに語っていた。キム・ヨンス、ワンダーボーイも読んでみたい。2022/10/01
えりまき
13
2023(295)日本語&韓国語で読めるショートショート。本当にショートでサクッと読めました。主人公が過去を振り返るしみじみとしたお話。韓国のコンボパン?餡餅?食べてみたい。 2023/10/15
kuukazoo
10
右開きで日本語、左開きで韓国語で読める短篇。いつか左開きで読めるといいな。たぶん韓国の地方都市にあるたぶんニューヨークとは何の関係もない小さなパン屋の末っ子として育った「私」。店を切り盛りしながら子ども達を育て上げた母。そのパン屋も廃れ同じ町にあった時代遅れの小さな店たちと同様に姿を消してしまうが、生きていくための灯として、もういない人と共に記憶の中に在り続けている。読むうちに脳内でショートムービーになった。犬の餌になったカステラのキレッパシも。2023/10/31