内容説明
漱石、谷崎から夢野、小栗まで…戦前期の、モダニズムと奇想に彩られた変格ミステリの代表的傑作15作を集成する、変格をこよなく愛する作家・竹本健治の選によるアンソロジー!同時代に隣国・中国で花開いたミステリ文化を象徴する短編・孫了紅「真偽の間」も収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
90
1841年E.A.ポー「モルグ街の殺人」から始まるdetective storyが、日本で流行した1890(明治20)年代探偵小説と呼ばれた。その内謎解きやトリック重視のものを本格と呼び、異常心理を重視したものを不健全派と命名した。後に不健全派を変格と呼ぶ。竹本健治の選ぶ戦前傑作の16篇のトップは、夏目漱石「趣味の遺伝」でした。谷崎、芥川、川端、乱歩、正史と、何れも人そのもののおぞましさと犯罪に手を染める心理を描く物語。個人的な好みでは、谷崎潤一郎「白昼鬼語」が一番良かった。海野十三「俘囚」もいい。2022/02/05
Sam
56
「変格探偵小説」の誕生からその変遷を解説した序文を読み、「変格」の何たるかが分かった気になる。曰く「変格」とは「本格」の単なる対概念に留まらず「ミステリ・ジャンルの間口を拡げ、表現者たちの実験的精神を刺激し、涵養する、肥沃な土壌を提供した」。そして本編最初の作品は「陽気のせいで神も気違いになる」という、いかにも「変格」を予感させる一文から始まる漱石「趣味の遺伝」。夢野久作や小栗虫太郎といった変格の代表作家たちに加えて谷崎潤一郎や芥川龍之介、川端康成の作品も紹介されている。なかなか面白いアンソロジーだった。2022/06/08
geshi
29
『白昼鬼語』戦前ミステリの型をしっかりふまえた妖しい雰囲気は流石谷崎というべき筆運び。『魔』噂によって肥大するパニックを丁寧に描いていて時代や状況を越えた普遍性がある。『殺された天一坊』知られた大岡裁きを題材に真実のありさまを考えさせる苦味。『目羅博士の不思議な犯罪』日常のすぐ隣に開く異界への扉を書かせたら乱歩の右に出る者はいない。『俘囚』SFとミステリをごっちゃにしたらバラミスが出来上がりました。『蔵の中』終盤の無限回牢に迷い込むような感覚は横溝作品として異質で忘れ難い。2022/06/21
不見木 叫
12
竹本健治による変格ミステリアンソロジー(戦前編)。確かに「本格」とは異なる読み味を感じる。浜尾四郎「殺された天一坊」、江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」、木々高太郎「網膜脈視症」が特に好きな話です。2021/11/16
ふるい
12
面白かったので、ぜひ戦後篇、現代篇…と続いていってほしい。夏目漱石「趣味の遺伝」、浜尾四郎「殺された天一坊」、横溝正史「蔵の中」、久生十蘭「海豹島」あたりが特に好み。また、論考「中国における変格ミステリの受容史」では、日本とほぼ同時期に推理小説が輸入された中国において日本のミステリがどう読まれてきたかがわかり、とても興味深い。2021/09/22