感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きじねこ
4
文庫の『挟み撃ち』を母親にあげたので、デラックス解説版を自分用に買って再読。本編は再読でもちゃんと面白い。きっと次読んでも面白いだろう。 p125~基本的に『だ、である調』であったのが『です、ます調』に変わるところがあって、そこだけ少し温度が上がるような感じで鮮やかだった。主人公の感じた幼年学校への憧れの崩壊、「実際、昭和七年に私が生まれて以来、とつぜんでなかったことが何かあったでしょうか?」…前回読んだ時、何故記憶してなかったのだろう。ここはずっと問われ続けてゆくべき問題を孕む部分だと思う。2020/12/30
ルンブマ
3
2度目。やっぱ面白い。ちょうど今、私は最晩年ラカンの「象徴的命名」という概念?術語?に関して研究しているのだが(原和之(2021)「『肖像』のエゴ-イズム :ジョイスとラカン」参照)、この後藤明生の執筆の試みというのは、まさしく原和之が述べるところの「実践」であるように感じた。ジョイスの作品よりも、後藤の『挟み撃ち』の方が、ラカン理論の実践の結果として理解しやすいかも。後藤明生に無意識はないと分析できるが、その無意識のなさを(現代の論者が語るような否定的な立場ではなく)明るい喜劇的立場から述べられそうだ。2022/02/02
Hiro
2
この小説が出た高校生の頃からずっと気になりながら50年、今ようやく読んだ。面白い、傑作だ。最初は独特の文章に戸惑うが、過剰で展開の速い、宙返りを繰り返すような語りはユーモアがありしかも寂しさやほろ苦さを湛えながら決してウェットにならない。読者は何度も肩透かしを喰らったり焦ったい思いをして結局得るもののなかった主人公の一日に付き合うことになる。喪失と徒労と落胆と無意味さを甘受しつつ生きるということの面白さと哀愁が伝わって来る。特に敗戦の時主人公が兄と共にレコードなど家中の宝物を処分する挿話が印象的だ。2022/08/22
ルンブマ
2
例えばヨーゼフボイスがフェルトと脂肪を自分のシグネチャーとして使い出すような原体験の神話化(使命のでっち上げ)は、突然外部から啓示を受ける訳ではなく、自分の世界の中で自らそのモノへと漸次的に近づいていくことの継続・記憶の積み重ねによりできるようになるものである。人生の必然性は自らつくっていくものであって、そのためにはどこかのある時点で必然性に囚われない決断を下すほかない。荘厳な偶然性に流されながらも、『挟み撃ち』において見られる突発的な「立ち止まり」の瞬間に、勝手に必然性の思考に切り替えてしまえばよい。2021/02/10
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